あんこくさん編

<<ヴァレンタイン>>






名門私立女子校、S学院中等部、図書室。

時折、さやさやと風が笹の葉を揺らすかの如く、少女たちのささやきが聞こえるとはいえ、この女子校の賑やかな昼時においては、ここは数少ない静かな場所である。

そして、小夜子にとって、校内で一番好きな場所であり、最も落ち着ける空間であった。


いつものように、お気に入りの窓際の席に座って、今日はリルケの詩集を開いた。

小夜子は毎日のように、昼食後ここへ来て、詩集を読み耽ったり、画集を眺めたりして過ごす。

この静けさや、落ち着いた雰囲気が小夜子を和ませたし、何より、ゴシップ好きの学友たちの噂話に付き合わされずに済む。


ところが、今日はこの図書室でさえ、なんだかザワザワと落ち着かない雰囲気だった。

いつもより声高に少女たちの話し声が周囲に満ち、それは、少し離れて座っている小夜子の耳にまで、聞くともなしに聞こえてしまう程だった。


「ねぇねぇ、この前、リコのクラスに転入してきた子ってどんな感じ?」

「なんでも、けっこうな家のお嬢様らしいんだけど、なんか子供っぽいし、話合わないよ、ロリロリって感じでさぁ、自分のことは名前で呼ぶし、自己紹介でも『趣味は、ぬいぐるみを集めることでぇす』だって」

友達の問いに答えた少女は、大げさに首をすくめて見せた。

「えー、それ、相当ぶってるよぉ、みんなでシカトしちゃえば?」

「うん、そだね……ね、ね、そんなことよりさ、サチはバレンタインの本命チョコ、誰かにあげるの?」

「うーん、とりあえず、今はターゲットいないしね、今年は友チョコだけで終わりそうね、そういうリコはどうなのよ」

「え、私?うん、えへへへ、実はね…Y校のバスケ部のS君に…あげようかな…なんてね…」

少女は恥ずかしさで顔を真っ赤に染めてうつむき、語尾はほとんど聞き取れないほど小声になっていた。

「えー、やめときなって、彼って、毎月のように彼女を変えてるって聞いたわよ」

二人の会話を隣で黙って聞いていた、勝ち気そうな少女が話に割って入った。

「えぇーっ!そうなのぉー?」

リコと呼ばれていた少女は、それを聞くなり、ガタンと音をたてて立ち上がり、叫んだ。

周囲の視線が、一斉に彼女に集中した。

すかさず、それを察した二人が、リコの制服を引っ張って、むりやり席に着かせる。

「しー、しぃーっ、声、大きいってば」

3人はバツが悪そうに、周囲にペコペコと頭を下げながら、図書室を出ていった。


 (そうね、もうすぐバレンタインデーですものね…)

小夜子は少女たちの浮き足だった様子に納得がいった。

 (私には関係のないことだけれど…)

小夜子は、ため息をつきながら、再び詩集に目を落とした。

毎日、運転手付きの高級車で送り迎えの登下校。

素敵な男性との出逢いなど、望むべくもない状況である。

しかし、そんなことよりもはるかに重要な要因が彼女にはあった。


小夜子の身体的特徴の特異さは、すでに周辺校の生徒には、ほぼ全員に知られてしまっている。

こんな自分を、恋愛の対象として見ることのできる者など、少なくとも同年代の少年の中には存在しないであろうということくらい、小夜子には痛いほど分かっていた。

とはいえ、多感な15歳の少女にとっては、あまりにも過酷な現実であった。

(こんな私にも、いつの日か、笑顔でチョコを受け取ってくださる男性が現れるのかしら…)

窓から差し込む、穏やかな冬の日差しを受けながら、小夜子は思うのであった。



豪華なシャンデリアをしつらえた広い部屋で、一人のかわいい少女が中年女性と共に食事をしていた。

まっ白なクロスを掛けられたアンティークのテーブルは、二人きりの食事には、あまりにも大きく、寒々として見えた。

数人のメイドが、かいがいしく二人の世話をやくほかには、この部屋に人の姿はなかった。


メイドが運んだ食後のデザートを断りながら、少女が口を開いた。

 「パパとママから、春休みにも帰れそうにないってお手紙が来たの…」

それはまるで、幼い子がすねてみせた時のような口調であった。


少女の名は、嘴崎美華(はしさき みか)。

少し前に、小夜子が通うS学院中等部の1年生へ転入したばかりである。

色白の肌に、うすいピンク色の頬。

ゆるくウェーブのついた柔らかそうな髪を大きなリボンでまとめた姿は、まるで高級ブランド子供服のカタログに登場しそうな、愛らしい少女である。

容姿がそれだけ幼い上に、甘いデザインの洋服が好みということも相まって、どう見ても中学1年生には見えない。

せいぜい、小学4年生くらいに見えてしまう。

今日のいでたちも、ハイウエストのジャンパースカートにハイソックス、肩幅ほどもある大きな丸襟の白いブラウス、その上から、かなり丈の短いボレロを合わせた、お気に入りのスタイルである。

ペチコートやパニエを何重にも重ねてあるので、ボリュームがあって収まりが悪く、やや座りづらそうにしている。


 「まあ、それでは又しばらくは、お淋しいことでございますね」

美華の正面に座して受け答えをしているのは、立花由香里。

美華の両親は、仕事の都合上、一年のほとんどを海外で過ごさねばならなかった。

その留守を預かり、美華の面倒をみているのが、教育係の由香里であった。

痩せぎすの長身で、いつもフルレングスのロングスカートに、あごのすぐ下まで詰まったハイネックのブラウスを着ていた。

過剰なまでに肌を人目に晒さないその姿勢は、何か強い意志の表れであろうか。


今度は由香里が美華に話しかける。

 「ところで美華さま、新しい学校はいかがですか?新しいお友達はできました?」

 「まだ一月も経ってないもの、よくわからないわよ、クラスの人も美華のことを遠まきに見てるだけだし」

美華は素っ気なく答えたが、由香里は全く気にせずに続ける。

 「そうですか、ともかく、良い学校が見つかって、私は安心しております、なにしろ前の学校ときたら、隣が男子校だなんて、なんというひどい環境でしょう、大切な美華さまを、そのような者たちの低俗で野卑な視線に晒すなど…おお、考えただけでもおぞましいこと…」

そう言い終わると、二の腕をさすりながら震え上がった。

 「でも男の人って、本当にそんなに怖いのかな?由香里さんがいつもいうようにさ…」

美華は不思議そうに由香里にたずねた。

 「お嬢様!あのように下劣な生き物に、そんな疑問をお持ちになってはなりません、男などというものは、女性を単なる性欲のはけ口としか見ない下等な生き物でございますよ!」

 「せいよくってなあに?」

美華は無邪気に聞いてくる。

 「あ、あ、こ、これは失言でした。そのようなお下品な言葉は、美華さまがお知りになる必要はありません」

「えー、でもぉ」

「と、とにかく、このお話はお終いにします、よろしいですね」

彼女の身にどんな過去があったのか、それは誰にも分からない。

だが、由香里が男性に対して極度に嫌悪感を抱いていることは、誰の目にも明らかだった。


 「あ、そうだ、聞いて聞いて、美華ね…」

切り替えの早い美華が、話題を変えて話し始めた。

 「美華ね、お友達はまだできてないけど、素敵な人を見つけちゃったんだ」

 「それは、どのようなお方で?ま、まさか、お、おとこ…」

慌てる由香里などおかまいなしに美華は続けた。

 「3年生の先輩でね、楠本小夜子さんってお名前なの、お上品で、物静かで、とっても素敵な方よ」

ほっと胸をなで下ろす由香里を尻目に、美華のテンションは上がり続ける。

 「先輩は、いつも図書室の片隅でひとり、ご本を読んでらっしゃるの…窓から入る薄日に、長い黒髪がキラキラ輝いて、それはそれは綺麗なのよ」

 「そうですか、そのような方が」

安心した由香里は満面の笑みで相づちを打つが、美華の耳には届いていないようだ。

 「初めてお見かけした時、見とれていたら、ふいに目が合っちゃったの、そうしたら、にっこり微笑んでくださって、美華ったらドキドキして気を失いそうだったわ」

そう言うと、美華はそのシーンを回想したのか、目を閉じて頬を紅潮させ、天を仰いで、ほぅっと小さく息を吐いた。

 「でもね」

急に真顔に戻って美華が続ける。

 「小夜子先輩って、お友達がいらっしゃらないらしいの」

今までのハイテンションから一転、美華の表情に憂いの翳が宿る。

 「噂で聞いちゃったんだけど、小夜子先輩って普通じゃないんだって…」

 「と、申されますと?」

要領を得ない言い回しに、由香里がじれて尋ねた。

 「先輩ね、普通の女の子とちょっと違ってるんだって…美華たちみたいな普通の女の子とは、身体のつくりが違うって…それで、誰からも…」


美華は自分が聞いた事実を由香里に伝えた。

 「…まぁ…」

全てを聞き終えた由香里は、絶句した。

 「でもね、美華はそんなこと気にしていないから、だから小夜子先輩と仲良しになりたいの」

美華は明るく言い切る。

 「先輩のこと、全部知りたいの、普通の女の子と違うっていうところも含めて」

由香里は何事かを思案しながら、だまって美華の言葉を聞いていた。

 「ねえ、由香里さん」

 「なんでございますか?」

美華が神妙な面持ちで由香里に尋ねる。

 「男の人が、凶暴でいやらしくて怖いのは、あそこにおかしなものがついているせいだって、由香里さんは教えてくれたでしょ?」

 「…そ、そうでございますね…」

どぎまぎしている由香里に、美華は真面目な口調で続ける。

 「だったら、同じものをお持ちの小夜子先輩も怖い人になっちゃったりするのかなぁ?あんなに優しそうなのに…」

 「それは…その方と親しくなられて、ご自分でお確かめになるほかないのでは…」

 「うん、それでね、美華ね、来週のバレンタインデーに告白しようって決めてるの…あはっ、言っちゃった、やだぁ」

美華は頬を赤らめて、由香里に自分の考えを明かした。

 「まぁ、では急ぎ、美味しいチョコをご用意いたしましょうね」

 「小夜子先輩、美華のチョコを喜んで受け取ってくれるかしら…うふふ」

あたふたと用意を始める由香里をよそに、美華は潤んだ眼差しでつぶやくのだった。



今年のバレンタインデーは、ちょうど日曜日に当たっていた。

それは、親しい友人のいない小夜子にとっては幸運であった。

女子校といえども、校内でのチョコレートのやりとりは盛んに行われる。

もちろん、男子生徒の存在は皆無であるから、女の子同士でチョコのやりとりをするわけである。

いわゆる、友チョコといわれるものだ。


可愛くラッピングされたチョコレートがクラス中を飛び交う。

あちこちで挙がる歓声。

教室に充満する甘い香り。

だが、小夜子にはチョコを渡す相手がいない、誰かからチョコをもらえるアテもない。

そんな淋しい思いをするくらいなら、いっそ、そんな行事を忘れられる休日の方が有難かった。


午前中は、街道沿いのカフェで手紙を書くなどして、ゆったりした時間を過ごし、午後からは図書館にやってきた。

小夜子は、街のはずれにある、この小さな図書館が大好きで、よく訪れていた。

読書に耽って、時が経つのを忘れてしまうのは、毎度のことだったが、この日は特に遅くなってしまった。

ふと、顔を上げて周囲を見回すと、館内にはすでに人影もなく、窓から見える街並みには、夕暮れがせまっていた。

 「まぁ、もうこんな時間なの?そろそろ帰らないと…」

小夜子は独り言をつぶやきながら、大急ぎで図書館を後にした。


ここから駅までの道のりは、図書館裏手の公園を抜けていった方が、賑やかな表通りに比べてはるかに短い。

ただし、その公園は灯りも乏しく、日が暮れてしまえば、人通りも途絶える。

小夜子は、道中に不安を抱えながらも、帰宅が遅くなってしまうことを危惧して近道を選んだ。


既に陽は落ち、背の高い木々に囲まれた公園は、ようやく人の顔が判別できる程度の明るさだった。

昨日の雨で少しぬかるんだ遊歩道を、足下に注意して小夜子は急いだ。

こんな人気のない、薄暗い道を少女が一人で歩くには、かなり勇気の要ることである。

今にも、傍らの茂みから何か恐ろしいものが現れそうな気がして、身の縮む思いだった。

だが、そんな恐怖の時間にも終わりが見えた。

角を曲がったその先に、公園の出入り口と、更に先には広い通りの灯りが見える。

小夜子はホッとして、出口へと早足で歩を進める。

地面はいつの間にか石畳に変わっていた。コツコツコツ…小夜子の靴音がせわしなく響く。


あと少しで公園を抜ける、というところで靴音が止まった。

出入り口に設置された、車止めの柵の付近に、人影が見えた。

まだ少し距離があるのと、逆光になっているせいで分かりづらいが、男性二人がこちらを向いているようだった。

小夜子はちょっと驚いて、一瞬立ち止まっていたが、再び歩きだし、ゆっくりと出口へ向かう。


近づくにつれ、徐々に彼らの風貌がはっきりと見えてきた。

二十歳前後の若い二人連れで、どう見ても、素行の悪そうな男たちであった。

一人はジャンパーのポケットに手を突っ込み、柵にもたれて、ニタニタとにやけた顔で小夜子を見ていた。

もう一人は、クチャクチャと音を立ててガムを噛みながら上を向いていたが、明らかに横目で小夜子の動きを追っていた。


小夜子は怖くなって、彼らを刺激しないように、目を合わさぬようにと思い、平然を装って、うつむき気味に、横を通り過ぎようとした。

本人は、良家のお嬢様らしく、彼らのことなど気にも留めず、適度な威厳を保って、颯爽と歩いているつもりなのだが、端から見れば、いかにも小動物が外敵を恐れてビクビクしているように見える。

狙った獲物が、そんな仕種を見せたとき、凶悪な獣にとっては、たまらなくそそられる媚態に映るものだが、お嬢様育ちの小夜子には、想像もつかぬことであった。

もちろん、彼らがさりげなく目で合図を送り合っていたことなど、気付くはずもない。


彼らの前を過ぎ、柵の間を抜けて、小夜子の胸中に、ほんの少しの安堵感が訪れかけた、その時。

 「ようよう、そこのカーノジョー」

いきなり、背後から声を掛けられた。

小夜子は、その瞬間、ビクっとして背筋に冷たいものを感じたが、聞こえぬフリをして、振り向かずに行き過ぎようと思った。

 「ちょっと、待ちなよ、へへ」

いつの間にか、すぐ後ろに迫っていた男に、ぐい、と手首を掴まれ、後ろ手にねじり上げられた。

 「い、痛い、なにをなさるんですか、は、放してください」

小夜子は必死で抵抗するが、非力な少女がどれだけ抗ってみても、男の強い力で固定された腕は、簡単には振りほどけない。

 「放してっ、…い、痛い、…お願いですから、放してください」

 「うへへへ、なーんだよぉ、シカトしてっから、喋れないのかと思ったら、かわいい顔にぴったりのイイ声で泣いてくれるじゃんか、ヒヒヒ」

男は下卑た笑いを漏らしながら、慣れた手付きで腕を掴み直し、小夜子はすっかり羽交い締めの体勢にされてしまった。

そして、そのまま後ずさりをしながら、ズルズルと小夜子を公園まで引き戻しにかかる。

 「やっ、いやです!…やめてください、だ、だれかーっ」

小夜子は足をバタつかせてもがきながら、誰かに助けを求めようと、通りを見回すものの、辺りに通行人は見当たらない。

道行く車は小夜子に気付きもせず、ビュンビュンと通り過ぎるばかりだ。

 「そう嫌がるなって、俺たちと楽しいことしようぜって言ってるだけじゃねえか、ククク…」

男は、背後から耳元でそう囁いたかと思うと、その脂ぎった顔を小夜子の白くたおやかな首筋や頬にすり寄せ、

清らかな少女の香りを愉しむかのように、くんくんと鼻をならした。

 「あぁー、いいにおいだぁ」

まばらな無精髭が、小夜子の赤ん坊のようなピンク色の頬をチクチクと刺激した。

小夜子は、全身に虫酸が走り、イヤイヤと大きく首を振った。

まっ白な可愛いコートに合わせて選んだ、白いベレー帽がぽとりと路上に落ちた。


儚い抵抗を続けるものの、とうとう小夜子は公園内に連れ戻されてしまった。

 「…お願いです、帰してください…」

男は羽交い絞めの体勢を崩さず、ハァハァとタバコくさい、荒い息を小夜子の美しい髪に吹きかけるばかりだ。

 「へぇー、なかなか、かわいい子じゃねえか…」

もう一人の男が、相変わらずガムを噛みながら近寄ってきた。

 「んー?…こいつ、ひょっとして…」

小夜子の顔を覗き込みながら、男は怪訝な表情を見せた。

 「どうした?」

しつこく小夜子の香りを貪っていた相棒が尋ねた。

男は、ぺっとガムを吐き出すと、小夜子のコートの合わせ近くを、むんずと掴んでガバッと力任せに開いた。

ブチ、ブチ、と嫌な音を立てて、下から何個かのボタンがち切れて飛んだ。

 「きゃぁーー! いやぁー、やめて、やめてください!」

コートの中は、ひだの細かいチェック柄のロングプリーツスカートだった。

男はやけに緊張した面持ちで、小夜子の下半身にそろそろと手を伸ばしてきた。

 「い、いや…お願い、や、やめて…」

小夜子は身体を捩って逃れようとするが、後ろからがっちりと押さえられていて、せいぜい下半身をくねらせる程度のことしかできなかった。

男はそんな小夜子を気にもせず、スカートの上からやんわりと股間に手を当てた。

何かを確信したかのように、男はニタリと顔を緩めてつぶやいた。

 「やはり、な」

先ほどから、さっぱり訳が分からずイラついていた押さえ役の男がいきりたった。

 「おい!なんだよ、さっきから俺にばっかり押さえさせやがって、自分ひとりでお楽しみかよ!」

相棒の興奮を尻目に、男はゆっくりと立ち上がると、小夜子を見下ろしてこう言った。

 「俺、こいつのこと知ってんだ」

 「な、なんだよ、知り合いか?」

それを聞いて、押さえ役の男の手が少し緩んだ。ここぞとばかりに、小夜子が腕を振りほどこうとする。

 「おい!逃がすんじゃねえ、しっかり捕まえてろよ!」

男の声に、我に返る相棒。再びしっかりと小夜子の身体を固定する。

 「ひっ、あぁっ」

強く押さえ込まれ、小夜子が弱々しく落胆の声をあげた。


 「こいつはな、こんなにお上品でかわいいツラしながら、俺たちと同じモノをお股にぶらさげてんのよ」

その言葉を聞いて、小夜子の身体がびくっと反応した。

 「は、はぁ?なに、わけのわかんねぇこといってんだ?」

押さえ役の男が、半分笑いながら言い放った。

 「さっき、ちょっと触って確かめてみたから嘘じゃねえよ、…なぁ、そうだろ? さ・お・こ・ちゃん」

その名を口に出され、小夜子は顔面蒼白となって、顔をそむけた。

 「じゃ、じゃあ、こいつ、お、男なのか!」

彼の驚愕ぶりは、男が噴き出しそうになるほど激しいものだった。

笑いをこらえながら、男は再び小夜子のコートに手をかけた。

 「いいや、モノは付いてるが、ちゃんとした女の子だよ、その証拠に…」

 「ひっ!」

わずかに残ったボタンを勢いよく引きちぎり、コートの前を全開にしたかと思うと、その下に着ているカシミヤの柔らかそうなセーターを、一気に胸の上までたくし上げた。

清楚なデザインのレースで飾られた純白のスリップの下に、かわいいブラに隠された二つのふくらみが確認できた。

 「おぉっ!」

相棒が背後から覗き込んで、胸の谷間を見るや、歓喜の声を挙げた。

 「あ、あぁっー、や、やめてください…ひどいことなさらないで…お願い」

小夜子は目に涙を溜めて懇願したが、そんな言葉も男たちにとっては、甘美なBGMでしかなかった。


ビリ、ビリ、ビビィーッ


男はスリップの胸の部分をレースごと縦に引き裂いた。

 「ひっ、あ、ああぁぁー、いや、やぁぁー」

小夜子が腕をほどこうともがきながら、悲痛な叫び声を上げると、男たちはますます興奮して興が乗ってきた。

押さえ役の男もたまらなくなったのか、小夜子の肩越しに身体を乗り出し、引き裂かれたスリップの中に手を差し入れてきた。

 「やめて、いやっ、いや、いやあぁぁ…」

小夜子は半狂乱になって身を捩り、手の進入を拒もうとするが、男に組み敷かれてしまっては、どうにもならない。

無惨に裂けたスリップは、かろうじてストラップだけは繋がっているおかげで、まだ胸の辺りに留まっていたが、男に無理矢理引き下げられると、ブチッと音を立ててあっけなくち切れ、だらしなくずり落ちて腰の位置で止まった。

これで小夜子の胸を隠すものは、フリルやレースがいっぱいの少女らしいブラジャーのみになってしまった。

男は更に、そのブラをも外そうとするが、焦っているのか、ぴったりとフィットしたブラを上手く外せない。

 「ええい、くそっ」

なかなか外せぬブラにしびれを切らした男は、かまわずブラごと小夜子の胸を、その大きな手で掴んだ。

 「ひあぁ、い、いた、痛い、や、めて、くださ…い、いたいぃぃー」

男は手加減なしの力任せに小夜子の胸を揉みしだき、その柔らかな感触をむさぼる。

形の良い美しい乳房は、ブラと一緒に醜く変形させられ、そのたびに小夜子は痛がって、切ない泣き声を漏らす。

 「あ、あああー、やめてぇー、痛い、お願い、痛いんです、ああー」


先ほどコートを全開にした方の男は、小夜子が暴れぬように、足を押さえつけていたが、相棒のねちっこい攻めにイラついて、声荒く言い放った。

 「おい、いつまでやってんだ!お楽しみはそれくらいにしておけ」

 「う、うるせえ、柔らかくて、サイコーに気持ちいいんだよぉ」

そう言いながら、更に身を乗り出し、胸の谷間に顔を埋めそうな勢いである。

 「オラ、どけって!おまえがそこに乗っかってると邪魔なんだよ、これから『さお子』ちゃんの自慢のモノを拝ませてもらうんだからな!」

 「お、おう、そうか、そりゃ、おもしろそうだな、ぐふふふ」

相棒は新たな悦楽が提案されると、素直に指示に従った。

いそいそと小夜子の背部に回り込み、再び上半身を押さえにかかった。


すでに力無く、ぐったりとなっていた小夜子だったが、二人のやりとりを聞いて、これから我が身に降りかかる凶事を察し、なんとしても男たちの魔の手から逃れようと、必死にもがきだした。

 「逃がすなよ、しっかり押さえてろ!」

 「お、おう」

さらに男が力を強めた。

 「いやっ、いやあぁ、許してください、それだけはいやぁー、やめてぇぇー」


淫獣と化した男たちには、少女の涙ながらの哀願さえ、耳に心地よく響くだけだった。

満身の力を込めて、ぴったりと足を合わせていた小夜子であったが、男に力ずくでひざを割られ、股の間に身体を入れられてしまった。

 「あ、あ、あぁぁ」

恐怖にかられた小夜子の口からは、言葉にもならぬ声が弱々しく洩れるだけであった。

チェックのプリーツスカートは、ひざを割られた時点でめくれ上がってしまい、小夜子の太ももには、純白のスリップだけが、しどけなくまとわりついていた。

スリップの裾には、先ほど荒々しく引き裂かれた胸の部分と同じデザインのレースがあしらわれ、小夜子の清楚さをさらに増すかのごとく演出していた。


男は、これまでの強引さとは打って変わって、そのスリップの裾をそっとつまみ、わざとじらすように、じわじわとめくり上げていく。

 「へへへ、さお子ちゃんのチンポコはどんなのかなー?」

 「うう、う…もう、もうやめて…かんにんしてください…」

とうとうスリップは腰近くまでめくり上げられ、パンティストッキング越しにショーツが露わにされた。

 「あ、あぁっ」

小夜子の口からは、あきらめとも取れる声が洩れ、もうこれ以上は正視できないのか、紅潮した顔をそむけて目を堅く閉じ、唇を噛みしめるばかりであった。


 「おい、やっぱりあそこがモッコリしてるぜ」

 「あ、ああ、こりゃマジだな…」

小夜子が着用しているショーツは、少女が愛用するものとしては、やや大きく、へその少し下に届くほど股上の深いものだったが、正面に付けられた小さなピンクのリボンといい、レースの飾りといい、間違いなく婦人もののランジェリーであった。

ただ、腹部から始まり、足の付け根に沿って股間で収束するはずの、美しく扇情的な曲線はそこには見当たらず、下腹部の途中から、いびつな膨らみが女性本来の美しいラインを壊していた。

二人の男は、しばらくの間、無言でその膨らみを凝視していた。

股に割って入った男が、恐る恐るショーツの膨らみをさすってみる。

 「あ、あぁ…、やめて、触らないで…いやぁ……」

男が手を触れると、小夜子の股間のものがピクリと反応した。

男は構わずに、強めにさすり続ける。

 「…くぅ、はぁっ……あっあっ…」

小夜子の膨らみは刺激を与えられ、少しずつ大きくなっていく。

 「お、おい、勃ってきたぜ」

 「へへへ、こいつ、擦られて感じてるんだ」

小夜子は指摘を受けて、ますます顔を赤らめた。

 「ち、違います、そんなんじゃ…はあっ、あっ、くうっ…」

確かに、さすられたり、やんわりと揉まれたりされるうちに、ますますその膨らみは大きさを増し、成人男性の平均的サイズをはるかに凌駕していた。

 (で、でかい…)

 (…オレのよりずっとでかいぜ)

二人は小夜子の大きさに驚き、無言のまま顔を見合わせた。

小夜子の股間をさすっていた男は、頃合いとみたのか、とうとうパンストとショーツの上端にまとめて手を掛けた。

 「さぁ、ボチボチさお子ちゃんのを生で拝ませてもらおうか!」

 「いやぁ…やめてぇー、それだけは許してください、いや、いやぁぁー」

小夜子は持てる力の全てをふり絞って抵抗を試みるが、15歳の非力な少女が男二人の力にかなうはずもない。

 「は、早くやれよ!」

 「へへ、い、いくぜ…」

ショーツを掴む男の手にぐっと力が入ったと思った、その瞬間……。


 「ぐあっ」

押し潰されたヒキガエルのような声をあげたのはショーツを下げようとした男の方であった。

ぎゅっと堅く閉じていた目を、恐る恐る開けた小夜子が見た光景は、つい今しがたまで自分の股間に座り込み、下着の上から性器をいじっていた男が、宙づりになってもがいている姿だった。

へたり込んだままの姿勢で小夜子が見上げた視界には、いつの間にか明るい月が昇り、その月を背景に、吊り上げられ足をバタつかせる男と、その背後に大きな身体のシルエット。

苦しげにもがく男の首には、太い腕がぐるりと巻かれ、足が地面から離れるほどの高さまで持ち上げられていた。

 「な、なにしやが…は、はな……苦し…」

息も絶え絶えの男は、なんとか言葉を絞り出した。

 「ふんっ!」

大きな影は一つ気合いのようなものを入れるや、身体を大きく振り、その勢いに乗せて男を思い切り投げ飛ばした。

 「うわ、わぁぁー」

男は空中を数メートル飛んだかと思うと、無様に地面に激突した。

 「ぎゃっ」

巨漢の人物は、その様子を気にも留めずに小夜子の方を振り返って、近づきつつ言い放った。

 「お嬢様からその薄汚い手をお離し!この下衆野郎!」

先ほどの荒技を目の当たりにしたもう一人の男は、震え上がって怯えていた。

 「う、うわぁ…よせっ、くるな、くるなぁー」

男は小夜子を押さえつけていた手を離し、背中を見せて走り出した。

ようやく解放され、気が抜けてぐったりとする小夜子の横を風が駆け抜けた。

 「ひいいっ」

その体つきからは想像もつかぬスピードで、逃げる男の背後に巨体が迫り、襟首を掴んで引き寄せた。

 「せいっ」

一声発すると、情けない声を上げる男の股に腕を通し、胸の辺りまで軽々と持ち上げる。

 「やめろ、お、降ろせ、降ろしてくれぇー」

 「言われずとも!」

そう言うと同時に、巨漢は男を地面に叩きつけるように落とした。

べちゃっ!

 「ぶぎゃぁ」

大きな音と悲鳴を伴って、男は地面に貼りついた。

 「ふんっ」

巨漢は、鼻を鳴らして小夜子の方へ振り向いた。


月明かりに照らされて、その姿が小夜子の目にもはっきりと映る。

190センチはあろうかという、大きくがっしりとした体格、ダークスーツに帽子と白い手袋。

服装だけ見れば、まるでタクシー運転手のようである。

しかし、大きいながらも、ふっくらと丸みを帯びた肉付き、そして、にっこりと優しげに微笑む丸顔を見た時、小夜子は初めてその人物が女性であることを確信した。

 「楠本小夜子さまでいらっしゃいますね?」

 「は、はい…」

 「危ないところでございました、お怪我は?」

 「…あ、いえ、ありません…あの、ありがとうございました」

ふらふらと立ち上がり、深く頭を下げる小夜子に、運転手風の女性は手を差しのべて身体を支えた。


 「…う、うう…や、やろう…」

投げ飛ばされた男が、うめき声を立てながらゆっくりと起きあがろうとしていた、その時。

 「おまわりさーん、こっちですぅー、こっち、こっち…はーやくぅー」

公園の出口付近で、少女が大声を上げながら、大げさな身振りで手招きをしている。

その光景に気付くと、途端に二人の男は顔色を変えた。

 「やべえ、サツか!おい、逃げるぞ!」

 「ま、待てよ!置いていかないでくれー」

彼らは口々に叫びながら、公園の奥に向かって一目散に逃げ出した。

小夜子が逃げていく二人の背中を見ながら胸をなで下ろしていると、謎の女性が身体に付いた枯葉やらホコリをパタパタと払い落としてくれた。

 「さあ、こんな忌まわしい場所から一刻も早く離れましょう」

 「ええ…そうですね…」

小夜子は、ボタンの無くなってしまったコートの前を手で合わせながら、女性の後ろに付いて公園の出口へ向かって歩き始めた。

明るい表通りに近づきながら、女性は公園の外側に向けて声を掛けた。

 「美華さま、もう大丈夫です、悪い奴らはおりません、小夜子さまもご無事です」

一呼吸の間があって、出入り口の低い壁から、ひょこっと白いウサギが頭をだした。

 (ウサギ!?)

小夜子は、あっけにとられたが、よくよく見るとそれは白いウサギのぬいぐるみだった。

ウサギに続いて、先ほどの少女がそっと顔をのぞかせた。

 「ほんとう?」

 「はい、この相田が言うのですから」

その言葉を聞くと、少女はほっとした表情でウサギを抱いて近づいてきた。

 「ああ、怖かったー、でも美華の演技、なかなかだったでしょう?」

 「はい、美華さまの機転のおかげで、悪い奴らは逃げていきました」

さっき警官を呼ぶ身振りをしたのは、少女による咄嗟の演技だったのだと、小夜子は気付いた。

 「そんなことより!」

少女は小さく叫ぶと小夜子の方を向いて、親しげに手を取った。

 「小夜子先輩、ご無事でよかったですぅー、捜してたんですよ、恐かったでしょう?」

 「…え、ええ…ありがとう」

小夜子はそう答えたものの、少女と面識はなく、ましてや、先輩よばわりされる覚えなど全くなかった。

 「あの…助けていただいたことには本当に感謝しているのですが、あなたがたは……?」

小夜子は素直に疑問をぶつけてみた。

 「あ、そっか、いっけなーい」

少女は、自分でコツンと頭を打つ仕草をした。

 「自己紹介忘れてました、私、ちょっと前に先輩と同じS学院中等部1年生に転入した、嘴先美華です!」

そう言うと、美華はあどけなさの残る人なつこい笑顔で、少し顔を傾けた。

 「え?同じ学校の1年生?」

小夜子が信じられないのも、無理からぬことであった。

150センチに満たない身長、緩やかにウェーブした髪を高い位置で二つにまとめたツーテールに大きなリボン。

ドレスかと思うほど裾の広がったミディ丈のピンクのコートには、大きく白いボア衿つき。

そのコートの上から、たすき掛けの小さなポシェット、極めつけは、大事そうに抱いたウサギのぬいぐるみ。

彼女の姿は、どこから見てもかわいい小学生であった。


小夜子の驚きを気にもせず、美華は続けた。

「この人は、美華の運転手さん兼ボディガードの相田さん、強いんだよぉー、さっき見たでしょ?」

「よろしくお願い致します」

相田は紹介されると、帽子を取って深く頭を下げた。

 「いえ、こちらこそ、よろしくお願いします、先ほどは本当にありがとうございました」

 「お礼なら、美華さまにおっしゃってください、公園の外に落ちていたお帽子を美華さまが見つけられたのです」

 「帽子を?」

 「あ、これですよぉ」

美華が小夜子の白いベレー帽を差し出した。

 「帽子の内側の縁に、『S・K』ってイニシャルの刺繍があったから…私、せんぱいを捜してたところだったから…」

確かに、それは小夜子の母がイニシャルを刺繍してくれた、お気に入りのベレー帽だった。

 「ああ、あの時に落として…でも、私を捜していたというのは、いったい…?」

 「あ、あの…それは…ですね」

美華は急にそれまでの勢いを失い、頬を染めてモジモジし始めた。

 「あ、あの、その…」

 「美華さま、しっかり!」

思い切りが付かない様子の美華に、相田がそっとはげましの声を掛ける。

 「??」

小夜子はますます訳が分からない。

 「…せ、先輩、これ、う、受け取ってください!」

美華はポシェットから取り出した、小さな包みを小夜子に差し出した。

 「こんな時に、失礼だと思いますけど…今日はこれを渡したくて…」

 「???」

奥手でニブい小夜子には、まだ理解できていないようだ。

なかなか受け取ろうとしない小夜子に、美華はさらにぐいっと包みを突き出した。

 「美華は、転入してからずっと先輩のこと見てました…美華は…美華は、先輩のことが…」

 「…これ、ひょっとしてバレンタインデーのチョコレート?」

 「はい!」

美華は元気よく返事をしながら、ようやく理解してくれた小夜子を、潤んだ瞳で見つめた。

 「あ、ありがとう、私、こういう物をいただくのは、初めてで…どうしたらいいのか…」

小夜子とて、これまで女子校で学生生活を続けてきたのだ、女子同士での、こうしたやりとりも何度か目にしてきた。

そのことに対して嫌悪感を持ったことも無かったが、まさか友人のほとんどいない自分の身に、そんなことが起きようとは、ついぞ考えたこともなかった。

しかし、いざ自分が告白を受ける立場になってみて、以外にも悪い気はしないものだと、小夜子は思った。

小夜子は、自分に向けられる好意に飢えていたのである。

下世話な興味と奇異の目で見られ続けたこの数年間。小夜子に好意を寄せる者など皆無に等しかった。


 「小夜子せんぱいは…美華のことキライですか…」

美華は目に涙を溜め、すがるような表情で小夜子を見つめる。

 「い、いいえ、そんな、美華さんの気持ちはとても嬉しいわ…とにかく、これは、有り難くいただいておきます、それに、助けてくださったことのお礼もしなければ」

 「そんな!お礼なんて、いいんです…あ、でも、もしよろしければ、これからうちに来てください!」

美華は唐突に小夜子を自宅に誘った。

 「え、でも…そんな急にお邪魔しては、ご迷惑では…」

 「迷惑だなんて…ぜひ来てください、お食事も用意させますから」

 「そう言われても…」

渋る小夜子に、相田も声を掛ける。

 「私からもお願いします、ぜひいらしてください、それに、そのお姿では電車にも乗れません、お帰りの際はこの相田が責任を持ってお送り致します」

 「そうですよ、うちでお着替えもしてください」

確かに、今日は電車で帰ると伝えてあった。いつものように迎えの車は来ないのだ。

今から車を呼んだとしても、到着を待つ間は、この格好のまま街角に立って、人の目に晒されることになるだろう。

 「…分かりました、では、お言葉に甘えて少しだけ」

 「やったぁ!」

美華は満面の笑みで飛び上がって喜んだ。

 「では、参りましょう」

相田が路肩に停車させていた車のドアを開け、小夜子と美華の乗車を促した。


二人を乗せた黒い高級車は、嘴ア邸に向けて走り出した。

早足で行きかう人なみを眺めながら、美華が憂い顔で、ぼそっとつぶやいた。

 「…やっぱり由香里さんが言った通り、男の人って恐いんだ…」

 「え?何かおっしゃった?」

 「い、いえっ、なんでもありません…あ、あの…先輩…」

美華が顔を真っ赤にしてうつむいたまま言葉を濁した。

 「はい?」

優しげににっこりと笑顔を向けた小夜子に、意を決したように美華が切り出す。

 「せ、先輩のこと…おねえさまって呼んでいい…ですか…」

小夜子は、一瞬あっけに取られたが、うつむいたまま、体をこわばらせて返事を待つ美華を見ていると、なんだか可愛く思えて、こう答えた。

 「あなたが、そう呼びたいのであれば、それでよろしくてよ…」

 「…は、はい…ありがとうございます、おねえさま…」

自分に妹がいたなら、こんな風に愛おしいという感情が湧くのだろうか、と小夜子は美華を見ながら思った。


やがて、車は繁華街を離れ、高台にある高級住宅地の奥へと進んでいく。

嘴ア邸はその高級住宅地の最も奥まった、特に大きな屋敷がまばらに建つ地区の一角にあった。

 「お屋敷に到着致しました、お疲れさまでございました」

相田は二人に声を掛け、車外に回り込んでドアを開けた。

 「行きましょう、おねえさま」

美華は傍らのウサギをしっかり抱きなおすと、他方の手で小夜子の手を取った。

 「ええ」

手をつないでエントランスに降り立った二人を、数人のメイドが整列して出迎えた。

 「おかえりなさいませ、お嬢様」

メイドたちは、美しい角度で揃って頭を下げ、挨拶をした。

これぐらいの家ともなると、執事の一人くらいいても不思議はないのだが、その列には執事はおろか、男性の姿は全く見当たらなかった。

 「おかえりなさいませ、美華さま」

メイドの列の一番奥から、由香里が姿を現した。

 「ただいまぁー、今日はお客様をお連れしたのよ、こちら、楠本小夜子さま」

美華は小夜子の腕に抱きつくようにして、皆に紹介した。

 「お噂は美華さまから常々うかがっております、ようこそいらっしゃいました」

 「この人は、美華の先生で、由香里さん」

 「はじめまして、楠本小夜子です、突然うかがいまして申し訳ございません」

小夜子はコートの前を押さえながら頭を下げた。

 「おねえさま、いいんですってば、美華が無理にお願いしたんだから」

すかさず美華が小夜子をかばったが、もとより小夜子の訪問を疎ましく思う者など、この屋敷にはいないことはその雰囲気からも明らかであった。

 「さあさあ、おねえさまは今日は大変な目に会われたのだから、まずはシャワーを浴びて嫌な気分も一緒に流してください、雅美ちゃん、お手伝いして差し上げてね」

 「かしこまりました」

美華に指名されたメイドの雅美はうやうやしくお辞儀をした。

 「あ、そーだ、シャワーが終わったら、お着替えしてくださいね、…うーん、でも美華のお洋服は、おねえさまには小さいしなぁ…」

考え込む美華に由香里が提案する。

 「奥様のお若い頃のドレスがクローゼットにございますから、それを着ていただいてはどうでしょう」

 「うん、それがいいね!お母様のドレス、たっくさんあって、どれもかわいいから、好きなのをえらんでね、おねえさま!」

 「ええ、ありがとう、そうさせていただくわ」

小夜子は二人に礼を言うと、雅美に屋敷の奥へと案内されていった。

 「ねえ、ねえ、由香里さん、おねえさまがドレスなんだから、美華もお着替えしていいでしょう?」

小夜子の後ろ姿を見送りながら、美華が由香里に尋ねた。

 「あらあら、しょうがないですわね…」

由香里は苦笑しながらも美華の願いを承諾した。

 「では、お二人がお姫さまに変身なさる間に、お食事の用意を急がせましょう」



美華は既にお気に入りのドレスに着替えを済ませ、由香里と共に小夜子の入室を待っていた。

欧州に長期滞在中の両親が、向こうのドレスブティックで作らせて美華に送ってくれたドレスであった。

爽やかなラベンダー色のミディ丈のドレス。

ふんだんに使われたフリルや、ふんわりと、かわいく膨らんだパフスリーブが少女らしい愛らしさを、逆に肘までの長手袋は、ちょっと大人びた印象を、見る者に与えた。

 「おねえさま、遅いなー」

美華は、待ちくたびれたらしく、テーブルに頬杖をついて、つぶやいた。

 「美華さま、お行儀が悪うございますよ」

横でその様子を見ていた由香里に指摘された。

 「…はーい」

 「初めてお目にかかりましたが、お話の通り、本当に美しいお方でございますね、小夜子さまは」

 「そうでしょー、美華の言った通りだったでしょ」

 「…あのように美しい方の秘部にあのようなものが…お逢いして更に信じられなくなりました…」

 「…そうよね、実際にこの目で見てみないと想像もできないよね…」

美華は戸惑いとも、好奇心の表れとも取れる複雑な表情をした。

そんな美華の顔をじっと見つめる由香里であった。


 「小夜子さまのご用意、整いました」

メイドの雅美に案内され、小夜子がゆっくりと入室してきた。

美華の母のドレスを纏った小夜子は、普段の制服姿しか知らない美華には、ことのほか美しく輝いて見えた。

 「うっわー、おねえさま、とっても綺麗!すてきですー!」

 「ありがとう…」

美華から賞賛を受けて、小夜子は少し照れた素振りを見せた。

多くの魅力的なドレスの中から、小夜子が選んだのは、やわらかいクリームイエローの膝丈のドレスであった。

大人っぽく大きく開いた胸には豪華なパールのネックレス、お揃いのイアリングも雅美がジュエリーボックスから用意してくれた物だ。

ぴったりフィットしたウエストの下で切り替えたスカートは、パニエを重ねて美しく膨らんでいる。

オーガンジーの袖はシースルーで、気品に満ちたセクシーさだが、フリルで飾ったカフスがかわいらしさも残していた。

ドレスに合わせて、髪もアップにしてもらい、リボン付きのシニョンでまとめた。

うなじの白さと後れ毛からは、ほのかな色気さえも漂っていた。

美華、由香里を始め、周りに控えるメイドたちまでが、しばし小夜子の美しさに魅せられ、ぽうっと見とれていた。

しばらくの静寂の後、由香里がはっと我に返り、ぼんやりしているメイドたちを叱咤した。

 「あなたたち、何をしているのです!早くお料理をお出ししてちょうだい!」

パンパンと由香里が叩く手の音に、メイドたちもあたふたと各自の仕事に就いた。

小夜子たち三人は楽しい会食の時間を過ごした。

中でも、普段、由香里と二人きりで味気ない食事をしている美華にとっては、こんなに楽しい食事は久しぶりであった。

小夜子は、嬉しそうな美華の笑顔を見て、招待を素直に受けて良かったと思った。



豪華な料理の数々を堪能し、食後のコーヒータイムに入った。

三人はここでも色々な会話を交わし、濃密な時間を楽しんだ。

学校生活のこと、家族のこと、最近見た演劇や展覧会のこと、様々な話をした。

楽しい時間は瞬く間に過ぎ、小夜子はそろそろ帰宅の時間が気になり始めた。

 「あの、もうこんな時間ですし、私はそろそろ…」

 「まあ、まだよろしいではございませんか、もっと小夜子さまのこと、お聞きしたいですわ」

 「そうだよー、おねえさま、まだ帰っちゃやだぁ」

美華は幼い子のようにふくれた。

 「そう言われても…」

 「こんなに楽しそうになさっている美華さまを見るのは、本当に久しぶりのことなのです、どうか…」

 「おねえさま…ずっと、ここに居てくださればいいのに……」

小夜子は困り果てた。

家の者もそろそろ心配しているだろう。

色よい返事を得られない由香里は、声のトーンを落として、小夜子にささやいた。

 「…小夜子さまの…お身体のことにも興味がおありなのです、美華さまは…そして私も」

 「!!」

小夜子は身体が凍りつく思いがした。

この二人は、どこまで自分のことを知っているのだろう。

転入したてで、まだ何も知らないと思っていたのに…。

 「…私、失礼します!」

咄嗟に席を立ち、踵を返す小夜子の口元に、由香里が素早く、隠し持っていたハンカチをあてた。

 「…な、なにを…す…」

抵抗しようとした小夜子の動きが緩慢になって、腕を力無くだらりと降ろし、身体を由香里に預けてきた。

ハンカチには、エーテルが染み込ませてあったのだ。

 (…おねえさ…大丈夫なの…こんな…由香…さん……)

 (……ご心配は……しばらく…眠って…)

美華と由香里がそばで会話をしているようだが、どんどんその声が遠ざかっていく…意識が薄らぐ…

ストンと眠りに落ちるように、小夜子は意識を失い、その場に倒れこんだ。


 「おねえさま…」

 「さあ、今のうちにお部屋にお連れしましょう」

 「う、うん…」

 「そっとですよ、手荒に扱ってはなりません」

由香里の指示を受け、メイドたちが数人掛かりで、意識を失った小夜子を美華の自室までそっと運んでいった。



 「・・・・ ・・・」

 「・・  ・・・・・・ ・・・」 

なにやらボソボソと、遠くから途切れ途切れに声が聞こえてくる。

周りの明るさはなんとなく感じるが、目が開かない。

なにより、まだ意識がはっきりしない、頭の芯がぼんやりしている。


 「…痛そうだよ、本当に大丈夫なの?」

 「大丈夫でございます、それほどきつくはしておりませんので」


段々と意識がしっかりしてきて、声がはっきり聞き取れるようになってきた。

なぜだろう…腕が痛む…少し痺れた感覚がある。無理な姿勢を取らされているらしい。

 「…ん…う、ううん…」

小夜子は部屋の照明が眩しいと感じながら、そっと目を開けた。

先ほどとは違う部屋に寝転ばされた自分。そして、そのそばに、美華と由香里が座り込んでいるのが確認できた。

 「美華さん…私、どうして…」

 「おねえさま、気がつかれました?」

訳がわからないまま、身体を起こそうとした小夜子であったが、思うように身体が動かない。

 「…えっ…??」

腕が動かない。無理に前へ出そうとすると、手首に巻き付いたものが、キリキリときつく食い込んだ。

二の腕も固定されていて、動かそうとすると痛みが走った。

 「…い、痛い」

 「あっ、無理に動かないほうが」

 「ああっ!そ、そんな…」

美華に言われて、小夜子はようやく自分の置かれた状態に気付いた。

華やかなドレス姿のまま、荒縄で後ろ手に縛られ、きっちりと胸縄も掛けられていたのだ。

下半身も足首と膝の上側を合わせて縛られているため、まるで身動きが取れない状態であった。

小夜子に許された自由は、せいぜい身体を捩る程度のことなのである。

 「どうして…どうしてこんなことを…」

小夜子は腕の痛みをこらえながら、二人に尋ねた。

 「ごめんなさい…だって、だって…おねえさま、帰っちゃおうとするんですもの…」

 「そんな…」

 「私どもも、このような事をしたくはなかったのでございますが」

愕然とする小夜子に、由香里が無表情で答えた。

 「縄を解いてください、美華さん、お願い、この縄を…」

小夜子の懇願に、美華は悲しそうに答える。

 「…ごめんなさい、それはできないの」

 「な、なぜ?」

 「おねえさまの事が大好きだから…だから確かめたくて…」

 「えっ?」

怪訝な顔をする小夜子に、美華は続ける。

 「男の人と同じものが付いているのでしょう?おねえさまの…ここ…」

 「!!」

やはり、知られていた。

美香に股間を指差され、小夜子は顔が火照っていくのが自分でもはっきりと分かった。

 「同じものが付いていたら、おねえさまも男の人みたいに怖い人になっちゃうのかな…と思って、だから…」

 「な、なにを言って…」

 「美華さま、そろそろ」

小夜子の否定の言葉を遮って、由香里が美華を促す。

 「…ええ、でも…やっぱり、ちょっと怖いかな…」

 「大丈夫ですよ、小夜子さまは動くこともできません、さあ」

どこまでも冷静な由香里が、ここへきて少し嬉しそうな様子だと小夜子は感じた。

美華が無言でドレスの裾にそっと手を掛けた。

 「い、いやっ、美華さん、やめて…お願い、非道いことしないで…」

するすると裾をめくり上げていく。

光沢のある滑らかな生地がするすると滑り、下から少しゴワついた生地の白いパニエが露わになった。

 「やめて、美華さん…ね、お願い…恥ずかしいこと…しないで…」

何重にも重なった半透明のパニエに、うっすらと小夜子の白い太ももが透けて見える。

小夜子が恥じらって身体を捩る度に、ふわふわとパニエが揺れ、さらさらという衣擦れの音が微かに聞こえた。

 「パニエがごわごわして邪魔だよう」

 「では、外してしまいましょう」

由香里が、いそいそとウエストのホックを外し、パニエを小夜子の足から抜き取ってしまった。

 「きゃあ、な、なにをなさるんですか…スカートを下ろして…お願い」

 「大丈夫ですよ、小夜子さま、そんなに恥ずかしがらずとも……私たちは女同士ではありませんか、ふふ」

由香里は、明らかに楽しんでいる。

小夜子にもそれは、はっきり感じ取れた。

自分に対する悪意がないのは明らかだが、この状況を、自由を奪った少女を弄ぶことを、彼女は楽しんでいるのだ。


パニエを剥ぎ取られてしまった小夜子は、もはや下半身はショーツとストッキングだけとなり、良家の令嬢として、ありえない程の恥ずかしい姿を二人の前に晒け出していた。

普段、愛用しているショーツは、小夜子の性器をしっかりとカバーしてくれるだけの大きさがあるのだが、

今、身に着けているものは、シャワーを終えた彼女のために、メイドの雅美が用意してくれた新しいものだ。

恐らくは、美華のために買ってあったのであろう、ティーンズ向けの、小さくてかわいらしいデザインの白いショーツ。

小夜子の膨らみを隠すのに、余裕があるとは、お世辞にも言えるものではない。


女性らしい、しっとりとした気品に満ちたドレス姿の上半身、そして縄で痛々しく固定され、不自然に膨らんだ股間を露わにされた下半身。

その対比がやけに淫靡な情景となって、二人の目を惹き付けていた。

 (本当に男の人のが…付いてる…おねえさま)

美華と由香里は、事前に知りながらも、小夜子の真実の姿を前にして、驚きを隠せなかった。

 「あ…ああ、見ないで…お願い、そんな目で見ないでください…」

小夜子は泣きそうになって、身体を震わせている。

 「おねえさま…かわいそうに、こんなに震えて……でも、本当は…少し嬉しいのではなくて?」

 「えっ?な、なにをいって…」

小夜子のいやらしい姿を目の当たりにして、美華も少し興奮してきたようだった。

火照った顔を小夜子の耳元に近づけ、ささやいた。

 「美華のこと、何も知らない子供だと思ってらっしゃるでしょう?…うふふ、でもね、美華だって色々知ってるのよ…」

サテン地の手袋を着けた、滑らかな指先を頬や首筋に這わせながら、潤んだ瞳で小夜子の顔をのぞきこむ。

 「美華ね、お父様の書斎で、男の人が読む本を見つけちゃったの…ふふ、それって、すごくえっちな本だったの」

そう言いながら、美華はいたずらっぽく微笑んだ。

 「それに書いてあったの…女の人って、こんな風に縛られて身体を触られると、気持ちよくなっちゃうんでしょ?」

 「あら、あら、いけませんよ、美華さま、お父様の書斎に勝手に入ったりしては」

由香里は美香を戒めながらも、どこか嬉しそうで、口元が緩んでいる。

 「こんな事をされて、気持ちよくなんて…」

 「そうやって、最初は嫌がっていても、段々と良くなるって、本には書いてありましたわ…だから、おねえさまも、すぐに気持ちよくなりますわよ…ええ、美華がご奉仕して、気持ちよくして差し上げますわ」

 「まあ、美華さまったら、私の存じ上げないうちに、そんなことまで…困ったものですわね」

言葉とは裏腹に、由香里が喜んでいることは、小夜子にもありありと分かった。

 「由香里さん、もう悪ふざけはおやめになって…早くこの縛めを解いてくださ…はっ、あぁっ、あ、あぁぁ…」

小夜子の哀願に耳を貸そうともせず、由香里はドレスの上から小夜子の乳房をやさしく愛撫し始めた。

 「あっ、ああ…くっうう…」

女性の攻めどころなど熟知している、とでも言わんばかりの淫らな指使いで、小夜子を快楽の渦に追い立てていく。

 「感じておられるのですね、小夜子さま…うふふ、よろしいのですよ、正直におっしゃって…かわいい…」

「んっ、んん…は、あぁぁ…由香里さ…や、やめ…く、はあっ、あぁ…」

小夜子は由香里の卓越した性技に耐え、吹き飛びそうになる理性を必死の思いで留めていた。

 (だ、だめよっ小夜子、こんなところで感じたりしては…だめ…で、でも、あ、ああ)

心では抑制しているつもりでも、下半身は思い通りにならない。

小夜子の陰茎は、じわじわと大きくなり始めていた。


 (なっなによ、由香里さんったら!美華に断りもなく、おねえさまの身体を…もうっ!)

由香里が熱心に小夜子を愛撫するのを見て、又、それを受けてよがり始めた小夜子の姿を見て、美華は心中穏やかではいられなかった。

 (美華だって負けないもん!おねえさまを気持ちよくして差し上げるのは美華なんだから!)


由香里が胸を攻めるならと、美華は小夜子の下半身に回り込んだ。

美華はショーツに手を掛けようと、小夜子の股間をのぞき込んだ。

 「きゃっ!」

美華が小さく驚きの声をあげた。

 「?」

由香里も思わず手を止めて、小夜子の股間に目をやる。

二人が目にしたものは、かわいいショーツの上端から、今にも顔を出そうかとしている小夜子の男性器であった。

ぐんっと、その太い軸を反り返らせ、いかにも窮屈そうに小さいショーツをはち切らせている。

 (おねえさまのあそこ、すごく大きくなってる…)

 (大きいわ…私が今までに見た、どんな殿方のものより、ずっと…)

 「見ないで…お願いだから、美華さん…見ては…いや」

小夜子は顔を真っ赤にして恥じらい、二人の視線から逃れようと身体を捩るが、荒縄できつく縛られた状態ではどう頑張ろうと無駄であった。

 「ね、ねえ、由香里さん、おねえさまは大丈夫なの?…こんなになっちゃって…」

 「ご心配には及びませんよ、小夜子さまは悦楽の園に飛び立とうとなさっておられるのです…これから、私たちもそのお手伝いを致しましょうね」

 「ち、違います…私は…そんな…」

小夜子は懸命に否定するが、由香里は余裕の笑みを浮かべるばかりであった。


見ているだけでは始まらないと思い、美華は恐る恐るショーツの膨らみをそっと撫でてみた。

 「ひあぁっ、や、やめて、美華さん…そんなところ、触らないで…はああっ…」

美華がショーツ越しに触れた途端、その膨らみはビクンと小さく動いた。

得体の知れぬ生き物が、白い布の下で蠢いているような気がして、美華は思わず手を引っ込めてしまった。

 (おねえさまの、こんなに大きくなって…大丈夫よね、美華を襲ったりしないよね…おねえさま、信じてるから…)

 「美華さま、大丈夫でございますよ、優しく撫でたり、揉んだりして、小夜子さまにご奉仕してください」

 「え、ええ…」

由香里の励ましを受けて、ぎこちない手付きで、美華は小夜子の男性器を愛撫し始める。

 (太くて、筋ばってる…それに暖かくて…ドクン、ドクンって脈うって…)

ショーツ越しとはいえ、男性器に触れるなど、美華にとっては、もちろん初めての経験であった。

愛撫といっても、せいぜい軽く撫でる程度のことしかできないのだが、そのソフトタッチの刺激が、小夜子にとってはもどかしさを煽られ、被虐的な快感を呼び覚ましていた。

 「はっ、あ、ああ…も、やめ、はぁぁ…んっ、ひああっ…」

下半身のもどかしさに反し、由香里の胸への愛撫は、まさに痒いところに手が届くとでも言うべき技であった。

優しく揉み上げる動作を基本に、時には強く絞り出し、かと思えば軽く周囲を擦るだけで、小夜子をじらして嬲る。

 「あっ、あっ、あ…そ、そんな…あひっ…い、いやっ、あぁぁ…」

小夜子の淫茎は確実に成長を遂げ、喘ぎ声に合わせるかのように、びくんびくんと不気味な動きを見せていた。


 「ショーツ越しの愛撫では、小夜子さまも、さぞかしじれったくお思いのことでしょう…そろそろ…」

頃合いと判断した由香里の言葉に、小夜子がびくっと反応した。

 「いやっ、いやです!脱がさないで…それだけは勘弁してください、いや、いやあぁー」

小夜子は、これまでにないほど激しくもがき、身体のあちこちから荒縄がぎしぎしと擦れる音をたてた。

もがくほどに、小夜子の柔肌には縄が食い込んでいったが、その痛みさえ感じぬかと思うほどの抗いようであった。

それは、気品に溢れ、優雅な立ち居振る舞いであるべき深窓の令嬢にあって、ありうべからざる無様な姿であった。

 「小夜子さま、そのようにはしたなく暴れては、美しい玉のお肌に傷がつきましてよ…さあ、美華さま、下着を」

 「え、ええ…おねえさま、美華がすぐに気持ちよくして差し上げます…」

美華は、極限まで盛り上がった小夜子のショーツに手を掛け、脱がそうとして、ふと手を止めた。

 「でも、このままでは…きちんとショーツをお脱ぎになれないのでは…」

 「…それもそうでございますねぇ…」

小夜子は、足をしっかりと閉じた状態で緊縛されている。確かに、このままではショーツを下げても太ももの途中でみっともなく止め置くことになるだろう。

それではまるで、強姦魔の手にかかって、陵辱を受けた婦女子のような印象となることは必至である。

 「ショーツをそんな中途半端にずらしておいたのでは、おねえさまがお恥ずかしい思いをなさるじゃないの」

 「…おっしゃる通りで」

かといって、縛めを解いて小夜子の足を自由にさせるのもやっかいだと由香里は思った。

美華の訴えるような視線に耐えながら、由香里は思考をめぐらせ、結論を下した。

 「しかたがありません、縄を解くわけにはまいりませんので、下着の方を切らせていただきましょう」

 「…!!…そ、そんな…やめてください、由香里さん……いや、いやです、絶対にいやあぁぁ…う、ううぅ、うぁぁ…」

由香里の冷淡な立案に、小夜子はとうとう泣き出してしまった。

 「美華さま、この部屋にハサミはございますか?」

悲嘆の涙をこぼす小夜子を、気にも掛けることもなく、由香里はてきぱきと事を進める。

その冷徹な行動は、まるで過酷な戦場に於いて医療に従事する者のようでもあった。

 「これでよければ…」

美華は、小学校時代に愛用していた「おどうぐばこ」から、先の丸まった子供用のハサミを取り出し、由香里に手渡した。

 「ありがとうございます、おあつらえ向きですわ、さすが美華さま」

にっこりと微笑んで由香里はハサミを受け取った。

ハサミといえど、刃物であることに違いはない。

最も危惧するのは、小夜子の身体を傷付けてしまうことであった。

鋭利な刃先を持たない、子供用のハサミであれば、小夜子の美しい肌に傷を残す心配もないだろう。

 「い、いやっ、やめて…お願い、やめてぇぇー」

ハサミを持った由香里が近づくと、再び小夜子が身体を捩って嫌がった。

 「小夜子さま、お静かに!動くと怪我をなさいますよ!」

 「うっ、うう、ぐすっ…ああ…」

由香里に一喝され、小夜子は目に涙を溜めて身体をこわばらせた。

 「では…」

由香里の言葉に、部屋の空気が一気に緊張感に包まれ、己の鼓動さえ聞こえてきそうな静寂であった。


美華も、息を殺して事のなりゆきを見守っていたが、先ほどから、自分の心理状態に違和感を持ち始めていた。

少女として、耐え切れぬほどの屈辱に身を置かれている小夜子の身を哀れんで、同情の念を寄せ、申し訳なく思うべきであるはずが、何故こんなにも自分はわくわくしているのであろう?

可憐で優美なドレス姿のまま、荒縄を掛けられ自由を奪われて、淫猥に陵辱されるがままの美少女。

あの日、父の書斎で盗み見た、淫靡な発禁本のあぶな絵の世界に迷い込んだかのような錯覚に陥る美華であった。

顔が、かあっと火照り、激しい動悸に胸が苦しい。

頭の芯がぼんやりして、視界が歪み、ふらふらする。

しかし、目前で行われようとしている淫らな行為は、間違いなく現実なのだ。


由香里の先導によって、粛々と事は進む。

それは、さながら神聖なる儀式が厳粛に執り行われているようであった。

美華は、ぼうっとした意識の中で、秘められた儀式の主役とも、贄とも思える小夜子を見つめていた。

 (おねえさま、綺麗ね……とっても綺麗だわ…でも……とってもいやらしいわ…おねえさま)

恍惚としながら、美華はこれまで抱いたことのない感情の芽生えに気付いていた。

 (大好きよ、おねえさま…すごく好き…でも、どうして?…壊したい…おねえさまを壊したい…こんなに好きなのに…滅茶苦茶にしてしまいたい…美華、おかしくなってしまったの…?)


由香里は、いよいよ小夜子のショーツにハサミを差し入れようとしていた。

 「あ、ああ…いや…やめて…くださ…いや、あぁ」

小夜子は、刃物で下着を切られる屈辱に震え、その後に待っているであろう、更なる恥辱の予感に怯えていた。

 「失礼致します」

由香里は何のためらいもなく、ハサミの刃をショーツの腰の部分に滑り込ませた。

 「ひっ!…あ、ああ…」

 「ふ、うふふふ…」

小夜子の肌に、刃物の無機質な冷たさがヒヤリと伝わった。

その冷たさは、まるで容赦のない由香里の代弁者のようであった。


ジョキ、ジョキ…


 「ああっ、やめ…て」

 「くふふ」

由香里は至福の笑みを浮かべながら、ショーツの右側を完全に裁ち切った。

小夜子の巨根によって張りつめていたショーツが片側のみ自由となって、一気にバランスを崩してはだけた。

ついに、上端から亀頭がにょきりと顔を出し、横側からは、睾丸が片側のみポロリと現れた。

 「き、きゃあああー、いやあぁぁー、見ないで、お願い見ないでぇぇー」

 「あらあら、ホホホ…小夜子さまったら、お行儀の悪いこと…楠本家のお嬢様ともあろうお方が、そのようなことでどうなさるのですか…ふふふ」

 「う、うう…ぐすっ…」

由香里は小夜子を言葉で嬲りつつ、続けて左側にもハサミを入れ、躊躇なく切り始めた。


ジョキ、ジョキリ…ジョキ!


嫌な音を立てて、ハサミは無慈悲にショーツを切り離した。

 「あぁ…くふっ、うう…う…」

通常の少女の心理としてここは、なりふり構わず両手で股間を押さえ、意地でも秘部を隠したいところであろうが、両手、両足を荒縄で縛り上げられ、そんな儚い抵抗すら許されぬ小夜子は、ただ泣きじゃくりながら、由香里の蛮行に耐えるしかなかった。

腰の両側を切り離され、かわいい白いショーツは、もはや只の布きれと化していた。

股を通して、前後は繋がっているものの、かろうじて小夜子の男性器の上にふわりと被さっているだけの状態であった。

 「さあ、いよいよ小夜子お嬢様の、生まれたままのお姿を見せていただきますわ、ホホホ」

冷血漢の由香里も、さすがに緊張した面もちで白い布に手を伸ばした。

 「いやっ、やめて!お願いです、もう許してください…いや、いやぁ、いやあぁぁぁー!」

由香里は細く骨ばった指で布の端を掴み、するりと小夜子の股間から、一気にそれを抜き取った。

その手つきはまるで、魔術師がハンカチに隠した手の中から、あるはずのない物を取り出して見せる時のようだと、横で見ていた美華は思った。

かろうじて小夜子の真実を隠していた、最後の布が剥ぎ取られ、ついに、絶対に見られてはならないはずの、小夜子の恥ずかしい部分は二人の目の前に晒されてしまった。

 「!!」

 「!…」

二人は、しばし言葉もなく、血管の浮き立ったその巨大な肉棒を凝視していた。

 「……お願い、見ないで…見ないでください…うう、こんな…ひどい…」

小夜子の瞳からは、止めどなく涙が溢れていた。

 「…これが、おねえさまの…」

 「…ああ、なんて、なんて神々しい光景でしょう!…素晴らしいわ、小夜子さま!こんな…こんな…ああ、ああ!」

由香里は興奮の頂点に達していた。

普段は血色が悪く青白い顔面が、今は湯気を立てそうなほど紅潮し、身体はぶるぶると震えていた。

 「美華さまも、よくご覧になって!これが…これが小夜子さまの『愛のお道具』でございますよ!!」

 「由香里さん…あなた…」

おかしくなってしまったのかと思える程に、興奮した由香里の様子を美華は、じっと見つめていた。

 「男などという下劣で凶暴な生き物だけが持っている醜悪な肉塊が、女性の清らかで美しい身体に宿った途端に、こんなにも素晴らしい愛のお道具になるなんて、ああ…なんて素敵なの…それも、こんなに逞しく立派な…」

そんなことを呟きながら、由香里は焦点の定まらぬ目で、小夜子の身体にすり寄った。

 「やっ…こないで、い、いやっ…」

小夜子は得体の知れぬ恐怖を感じ、身体をこわばらせて嫌がった。

 「うふふ…小夜子さまの…これよ、これ…いいわ、いい…」

由香里が小夜子の男根に手を伸ばしかけた、その時であった。


 ピシイッ


 「痛っ」

由香里の手の甲に鋭い痛みが走った。

 「さわらないでっ!!」

威圧的な声の主は美華であった。

美華が、おどうぐばこの中にあった物差しで、由香里の手を打ったのである。

 「美華さま、な、なにを…」

痛む手をさすりながら、由香里は美華の方を向いた。

 「おねえさまに気安くさわらないで、と言ってるの!今すぐにおねえさまから離れなさい!」

美華は、激しく由香里を叱責した。その力のこもった瞳には、嫉妬の炎がめらめらと燃え上がっていた。

 「こ、これは、出過ぎたまねを…」

美華の剣幕に、由香里はすごすごと引き下がったが、その表情には美華に対する忌々しさがはっきりと表れていた。

右も左も分かっていない、十二、三歳の未通女(おぼこ)に、このように大きな顔をされる事への腹立たしさ…

そんな由香里の感情には興味もないとばかりに、美華は小夜子の傍に寄り添った。

 「そうよ、おねえさまは美華だけのものなんだから…」

そう呟きながら、美華は改めて小夜子の股間に目をやった。

もはや、小夜子が下半身に着けているものは、レースの上品なガーターベルトと、それに吊られた清楚な白いストッキングのみであった。

そして身体の中心には、女性らしいたおやかな曲線美の肢体に対して、あまりにも不釣り合いな巨根がそそり立っていた。

 (おねえさまの『愛のお道具』…さっきの由香里さんの様子からして、きっと普通の人のよりずっと大きいのね…やっぱりちょっと怖い、でも…おねえさまのためですもの、がんばるのよ、美華……)

そう決心してはみたものの、性技に関して何の知識も経験も持たない美華には、何をどうすれば良いのか見当もつかないのであった。


そんな美華の困った様子を、ほくそ笑みながら見ていた由香里は、美華の目を盗んで小夜子の身体に取り付き、再びやわやわと乳房を嬲り始めた。

 「あっ、ふぁ、あぁ…くうっ…由香里さん、およしに…くふっ…なって…はああっ」

 「うふふ…美華さま、なんだかお困りのようですけれど?…私でよろしければ、お手伝い致しましょうか?」

茶化されたと思った美華は、由香里をキッと睨んだ。

 「ほっといてちょうだい!これから、美華がご奉仕して、おねえさまに気持ちよくなっていただくんだから!」

 「あらあら、そのように強がりをおっしゃって、ふふふ、まずは両手で、やさしく包むように小夜子さまを握って差し上げなさいな」

 「い、今からそうしようと思ったのよ、美華だって…分かってるんだから!」

負けん気の強い美華は、強がりを言いながら手袋を脱ぎ、恐る恐る小夜子の肉棒を両手で握った。

 「ああっ、やめて美華さん…ね、お願いだから…そんな…こと、はあっ」

まだ少し恐怖心が残っていたこともあり、美華の小さな手では、両手を使っても、小夜子の巨根を持て余していた。

 (え、ええっと、握ったけど…これからどうすれば…)

 「握っているだけでは、小夜子さまに満足していただけませんわよ…手を上下に動かすのです、強く、弱く変化をつけて、最初はゆっくり、そして少しずつ速くしてごらんなさい、ふふ」

まるで美華の心の内など読み切っているかのように、由香里が指示を出す。

美華は聞こえない風を装って、由香里の教え通りに手を動かし始めた。

何も分からない美華には、悔しいけれど、とりあえずそうするしかないと思えたからであった。

 (こうかしら…こんな感じでいいのかしら?)

ぎこちない動きながらも、美華の柔らかく温かい手に擦られ、小夜子のものは再び成長を始めた。

 「はああっ、くっ…美香さん、よして…あっ、あああ…そんなこと…あひぃっ」

 「そうよ、そう、美華さま、お上手ですわ…」

由香里に褒められ、美華は少し嬉しくなって、手のスピードを速めた。

 「あ、あ、んっ…そ、そんな…はっ、はあっ…美華さん…」

 (おねえさま、感じていらっしゃるみたい、嬉しい…こうね、こうでいいのね)

 「よろしくてよ、美華さま、今度はもっと強く握って差し上げましょう」

由香里に言われた通りに、美華は力を強めて、きゅうっと小夜子の淫茎を握り締めて、擦り続けた。

 「あっ、あ、ああー、だ、だめえー、そ、そんな…強く…あひぃ」

 「えっ、だめなの?ごめんなさい、おねえさま、痛かった?」

小夜子の絶え絶えの言葉を耳にした美華は、思わず手を止めようとした。

すかさず、由香里から鋭い声が飛ぶ。

 「おやめにならないで、美華さま、そのままお続けなさい!」

 「えっ、でも、おねえさまが…」

美華は不安げに、由香里と小夜子の顔を交互に見た。

 「ほほほ、よろしいんですよ、小夜子さまはたいそう喜んでおいでです、女性の『イヤ、ダメ』は、『お願い、もっと』と同じですのよ…うふふふ」

 「そ、そんな…ちが…くふうっ…あ、あっあっ」

美華は由香里の言葉を聞くと安心して、更に小夜子の巨根をしごいた。


小夜子のものは、いよいよ大きさを増し、20センチを遥かに越えるサイズとなっていた。

 (すごいわ…なんて立派な…しかも、これがこんな美しい少女の持ち物だなんて…ああ、私、目眩がしそう…)

二人が絡む様子を観覧しながら、由香里が愉悦に浸っていると、また美華が騒ぎ出した。

 「おねえさまのお道具、先の方がぬるぬるしてきちゃったよう…どうしちゃったの?」

 「よして…美華さん、そんなこと…おっしゃら…ないで…恥ずかしい、あっ、はあっ……」

小夜子は、先走りの粘液を美華に指摘され、顔を真っ赤にして羞恥に悶えていた。

 「まあ、それは大変ですわ、どうしましょう…」

由香里はわざと大仰に驚いてみせた。

 「ええっ、ど、どうしたの?おねえさま、どうにかなってしまわれたの?」

美華は慌てふためき、すがるような目で由香里を見ている。

 「小夜子さまは、いよいよ快楽の真髄へ足を踏み入れようとなさっておられるのですが…これまでのような単調な刺激では、果たして本当にそこへ到達なさるかどうか…」

 「そんな…どうすれば…」

由香里は、あくまでも深刻そうに演技して不安を煽りつつ、周到に美華を扇動する。

 「…私の考えでは、美華さまのお口で、小夜子さまのお道具をお慰めになるのがよろしいかと思うのですが、美華さまは、どのようにお考えでいらっしゃいますか?」

 「え、ええ、そうね…美華も、そう考えていたところよ、由香里さんも同じ考えなんて、奇遇ね…」

この期に及んでも、そのプライドの高さゆえ強がってしまう美華であったが、自分が既に由香里の術中に嵌められていることなど、全く分かっていないようであった。

 (おねえさまの、あの立派なお道具を、美華が口を使って…できるのかしら…そんな怖いこと…)

美華は改めて、極限にまで成長した小夜子の巨大な淫茎を目にして、それを自分が口にするのかと思うと、躊躇せざるを得なかった。

いくら敬愛する小夜子のものとはいえ、青筋を這わせていきり立つ男性器である。そのグロテスクな肉塊を口で愛撫するとあって、生理的嫌悪感は相当なプレッシャーとなって美華に迫っていた。

 (しっかりするのよ、美華、大好きなおねえさまのお道具だもの…平気よ、平気…)

美華は一大決心をして、小夜子の淫茎にピンク色の小さな唇を近づけた。

 「やめて、美華さん、そんなところを…お口でなんて…ああっ、よして、汚いわ、ね、お願い」

その様子を由香里は黙って眺めていた。

当初、大人げなくも、忌々しく思った美華を少し困らせてやろうと、彼女を煽っていた由香里だったが、小夜子に対する美華の姿勢がこうも純粋であることを思い知らされると、小憎らしいという思いも失せ、元来抱いていた、美華への愛おしさが再び湧き上がってくるのであった。

 (美華さま…本当に小夜子さまのことが…ならば、下らぬ邪念は捨てて、本気でご指導させていただきますわ)


美華はぎゅっと目をつむり、舌を小さく出して、まだ半分皮を被ったピンク色の亀頭をちろちろと舐めてみた。

 「ひああっ、くふっ、うあっ、ああ」

いきなり、最も敏感な部分に触れられた小夜子は、これまで味わったことのない快感に身体をのけ反らせた。

 「あん、おねえさま、暴れてはだめですわ」

小夜子が身体をのけ反らせたはずみで、淫茎がびくんと跳ねて、美華の手から離れた。

美華は、今度は逃がさぬようにと、しっかりと両手で巨根を支え、再び亀頭に口づけをした。

 「ん、んふっ…んん」

美華はもう怯えたりしなかった。それどころか、積極的に舌を這わせ、亀頭を舐め始めた。

自分の愛撫に小夜子が敏感に反応を示してくれたことが、美華はたまらなく嬉しかった。

その喜びに触れた途端、男性器に口を付ける嫌悪感も、恐怖も、どこかへ吹き飛んでいた。

 「おねえさま…ん、んっ…こう、んっ…ですか…ん、あむっ…」

 「あっあっ、ひあっ…美華さ…そ、そんな…だめ、だめ…あ、ああっ」

くすぐったいような、じれったいような、そんな初めての感覚を、小夜子はその身に刻まれ、身悶えせずにいられなかった。


由香里はそんな二人を見て、微笑ましく思いながら、自分も美華の手助けをと、小夜子の乳房を愛撫する。

 「はあっ、ゆ、由香里さん…あ、ああん、んんっ…やめてくださ…も、だ…め……」

 「うふふ、その『やめて』は『もっと』と理解してよろしゅうございますわね、小夜子さま?ほほほ」

二人がかりで、上と下を同時に攻められては、小夜子もたまった物ではない。

かといって、逃げ出すことさえできぬ小夜子には、彼女たちの甘美な蹂躙を甘んじて受け入れるほか無かった。

 「美華さま、そのように先を舐めておられるだけでは、蛇の生殺しのようで、小夜子さまがお可哀相ですわ、ほら、ご覧なさい、このように腰をくねらせて、おねだりしていらっしゃるのですから」

 「…そ、そんな、ああっ…そんなんじゃ、はあっ、んっ…ありま…せ…くうっ」

 「それじゃあ、どうしたら…」

美華は迷える使徒の如く、由香里に教えを請うのであった。

 「もう少し勇気を出して、お口の中に深く咥えてごらんなさい」

 「はう、んんっ…こ、こうかひら、んっ…んふっ」

美華は小さな口をめいっぱい開いて、小夜子の巨大な淫茎を咥えこんだ。

 「はあっ、あっ…美華さん…そんな…くうっ」

 「その調子ですわ、美華さま、お口の中で舌を絡めるようにして…そう、唇をすぼめて頭を動かしてごらんなさい、でも、決して歯を立てたりしてはいけませんよ」

 「はひっ、ん、ん、んんっ、んはっ…んんん…おねえ…さま…ん、ん、どう…れすか、ん、ん…」

小夜子のあまりの大きさに、苦しげな表情をしながらも、美華は由香里の教えに従って、それを素直に実行していく。


小学生のような、幼な顔の美華が、パフスリーブのかわいいドレス姿のまま、巨大な男根を懸命に咥える様子は、まるで洋物のロリータポルノのビデオ映像を見ているようないやらしさだと由香里は思った。

 「あっ、ああっ、美華さん…だ、だめぇー、そ、そんな…あ、ああー、くふうっ」

 「そうよ、そう…お上手ですわ、美華さま、もっと速く動かしましょう」

由香里の指示を受け、美華は口いっぱいに押し寄せる肉塊の苦しさに耐えつつ、ピストン運動のスピードを速めた。

前髪が汗で額に張り付く。大きなリボンが豊かな髪と共にふわふわ揺れる。

 「んっ、ん、ん、…はうっ、ん、ん、んく、ん…」

美華の動きが一層速く、リズミカルになっていく。

 (やはり、頭のいい子だわ…勘が鋭いのね、すぐにコツを掴んで自分のものにできる…素晴らしいわ、美華さま)

由香里は、美華の飲み込みの早さに感心しながら彼女の性技を見守っていた。

 「ああっ、くふっ…あ、あ、あひっ…やっ、だ…めえ…」

小夜子は、既にまともな会話さえできないほどに息が上がり、白磁のような白く美しい肌も、ほのかなピンク色に艶めかしく染められていった。

もはや、小夜子の令嬢としての品位とプライドだけが、性奴となって淫欲に屈することを、踏みとどまらせているのであろう。


 「ん、ん、んんっ…あっく、ん、ん…はむっ、むっ」

美華は、あまり単調な動きを続けてはいけないと思い、これまで以上に深く淫茎を咥えこみ、歯を立てないように注意しながら、唇をぎゅぎゅっと強く締め、しごくように上下に動かした。

 「ひっ、あ、あああー、はああー…だっだめ、だめええー、そ、そんな、そんな……あああー」

小夜子は、予想もしない刺激を受け、無意識に腰をガクガクと前後に動かしてしまった。

自分でも、どうしようもできない、理性では押さえきれない、淑女にあるまじき淫らな衝動であった。

小夜子に急激に腰を振られ、美華は咥えていた肉棒を喉の奥深くまで、無理矢理ねじ込まれる形となってしまった。

 「んんっ!…むぐっ、ぐえ…げほっ、けほ、けほ…うええ」

美華は良家の子女とは思えぬ、獣のようなうめき声を発して咳き込んだ。

 「まあ、大変、美華さま!大丈夫でございますか!」

由香里は驚いて、美華に声を掛けた。

 「美華さん…ご、ごめんなさ…ああ、私、なんて…なんてことを……」

取り乱し、心からすまなさそうに謝る小夜子を見て、すかさず由香里がフォローを出す。

 「美華さまが、あまりにお上手だから、小夜子さまも、たまらなくなられたのですね…美華さま、小夜子さまを許して差し上げてくださいね」

 「けほっ」

美華は、喉を突かれた痛みと苦しさで、目に涙を溜めながらも、にっこり微笑んで、無言で頷いた。

そして、再び小夜子の淫茎を手に取り、口へと運ぶのであった。


小夜子を恨みに思うどころか、美華はなんとも言えぬ幸福感に満たされていた。

自分の行為で、小夜子が己を見失うほどの快感に浸っているのだから。

そんな、いじらしい美華の心情を察しながら、由香里は冷静に分析する。

 (やはり、極限状態にもなると、男性のように攻撃的な性衝動に駆られるのかしら…ペニスを持つ者に課された定めだというの…縄で緊縛しておいたのは正解だったわね…)

 「それにしても、欲望のままに快楽を貪ったりして…淫婦のようなはしたない行いは慎むべきですわね、小夜子さま…ほほほ」

 「くうっ、う、う…ひくっ、ぐすっ…ああ…」

由香里のあけすけな言葉嬲りと、劣情を制しきれなかった己の淫らさに、小夜子はむせび泣くのであった。


悲嘆に暮れる小夜子を、慰めるかのように、美華はますます熱心にフェラチオを続ける。

美華の喉を突いた際に、一瞬我に返った小夜子ではあったが、二人からの波状攻撃のような愛撫が再開されると、瞬く間に、淫魔に理性を奪われそうになるのであった。

 「あひっ、あっ、ああっ、…くはあっ」

 「ん、んっ、んっく…おねえ、んっ、さま…ん、ん、好きよ、はむっむっ…っく」

休みなく続く二人の愛撫は、無限地獄のように小夜子を苛む。

 「あっ、あ、あ、ああんっ…ひああっ…も、もう…だ、だめ…い、い…ああっ」

小夜子の喘ぎ声と細かな腰の動きが、美華の頭の上下動にシンクロし始めたのを、由香里は見逃さなかった。

 「小夜子さま、よろしくてよ、イッてしまってよろしいのですよ…美華さま、あと少しですわ、がんばってくださいませ」

淫宴の終焉が近いことを悟った由香里は、美華を励まし、自らも更に激しく小夜子を責め立てる。

ドレスの上から、器用に乳首を探り当て、指でつまんで、ひねり出すように揉む。

いじめるように強く、じらすように弱く。

 「あっああっ、そ、そんな…はんっ、はんっ、はあんっ…いやぁ、あっ、あっ、やめ…あ、あ、ああん」

美華も負けじと、速度を上げる。

 「んっ、ん、ん、んは…くうん、ん、ん、…ふは、はむっ、ん、ん、ん……」

 「あっ、あ、あ、ああっ…あ、ああん…んん、だ、だめえ…い、いっちゃ…いい、いっちゃ、あ、ああっ…」

美華の動きと、小夜子のよがり声は完全に同調した。

小夜子の頭の中に、まっ白な空白地帯がどんどん拡大して、理性を飲み込んでいく。

もうこのままどうなってもいい、という思いが、小夜子の堅い貞操感を押し切るのも時間の問題であった。

 「さ、小夜子さま…いいわ…いいのよ、イッて…イッてください!」

由香里も小夜子のよがる姿にあてられ、興奮していた。

 「んん、ん、あむん…おね…さま、ん、ん…ど、どうぞ…ん、ん、んはっ…」

 「ああ、あっ、あっ、…はあん、はんっ、はんっ…でちゃ…あ、ああっ、でちゃう…でちゃううー、いやあああーー

あ、ああ、美華さ…ごめ…ごめんなさ…はあぁぁっ…で、でちゃう…でちゃうううー、あぁ、ああああーーーーー」

小夜子の頭の中で、何かが「ぷつん」と音を立てて切れ、ビリビリと電流が背中を走った。
  ・
  ・
  ・
  ・

 「あっ、あっ、あぁぁっ、あんっ、あっ、はあああーーーー」

小夜子は、屋敷中に響き渡りそうな声をあげて、昇天した。


 どくっ、どくっ、どぷっ、どぴゅ…


 「!!」

大量の精液が、美華の喉をめがけて放たれた。

 「…ぐぶっ、ぐふうっ…うぶっ…」

 「美華さま!」

何が起こったのか、美華には未だ事態が理解できずに、小夜子の肉棒を咥えたまま、呆然としている。

やがて口の中いっぱいに広がる、どろりとした感触、体験したことのない味覚。

 「ぐぷうっ…げほぉ、な、なに…なにぃこれぇ…うえっ、うええ…」

美華は、小夜子の淫茎と共に大量の濃厚な精液を吐き出した。


 ぐびゅっ、どぷっ、ぶぴゅっ…とく、とく…とくん……


まだ射精中であった小夜子の淫茎は、美華の口から吐き出されたはずみで一暴れして、辺りに精液をまき散らし、その後も、何度も蠕動運動を続けて、止めどなく精液を放出し、ようやく大人しくなった。

部屋中に広がる、生臭い栗の花の香り。

 「はっ、はっ、んんっ…美華さん…はっ、はぁ、んはぁ……」

小夜子は肩で息をしながら、虚ろな瞳で美華に視線を向ける。

 「げほ、けほっ、けほっ…うえっ…」

美華は顔といわず、髪、リボンにまで、小夜子の白い洗礼を浴びた。

 「ふえぇーん…なんなのぉ、これぇ…気持ち悪いよぉー、変な味だし…なんか臭いよぉー、ぐすっ…ううっ」

 「…美華さま…こ、これは、男性の…」

由香里は、今まで美華に男性の生理について教えることを、意図的に避けてきた。

美華が射精についての知識を持っていないのは当然であった。

それを、今になって説明しようとしたところで、美華の耳にはとうてい届くものではなかった。


何重ものフリルで飾られた豪華な襟元にも、一面に乳白色の液体が飛散し、染みを残していた。

胸元を華やかに演出していた上品なコサージュにも、どろりとした精液がたっぷりと付着し、花びらを伝って、ぼたり、ぼたりと糸を引きながら滴り落ちている。

コサージュから垂れ落ちた精液が、オーガンジーのオーバースカートを汚し、淡いラベンダー色の上に、白く濁った液溜まりを広げていく。

 「ひっく…ぐすっ、うえぇぇーん、おねえさま…ひどいよ、ひどいよぉぉー…ふえぇぇ……」

美華は泣きじゃくりながら、ふらりと立ち上がった。

 「美華さま…」

由香里がハンカチを取り出して、汚れを拭き取ろうと美華に近づく。

 「ぐすん、おねえさま…おねえさまの…ばかぁぁー…うわあぁぁーーん」

ドアをバタンと押し開き、美華は大泣きしながら部屋を走り去ってしまった。

 「ああっ、美華さまー、お待ち下さい……美華さまぁーー」

由香里も、美華の後を追って、大慌てで部屋を出ていった。


ピンクを基調とした、女の子らしいかわいい部屋に、荒縄で縛められ、身動きできない状態の小夜子一人が残された。

たくさんのぬいぐるみやお人形に囲まれ、小夜子は生気のない瞳で、天井を見上げて放心状態であった。

 「……どうして…私…なんてことを…美華さん……」



お姫様が愛用するような、天蓋付きのベッドの傍らに横たえられた小夜子が、精液まみれの恥ずかしい姿で、メイドたちに発見、救出されたのは、それから数十分後のことであった。

親切なメイドたちに、かいがいしく介護された小夜子は、相田の運転する車で、丁重に楠本邸へ送り届けられた。

こうして、小夜子の長い長い、バレンタインデーは幕を閉じた。



S学院中等部、図書室。

周囲の迷惑をかえりみず、ゴシップ好きの三人組が、今日もまた噂話で盛り上がっている。

 「そういえば、リコのクラスの転入生、また転校しちゃったんだって?」

 「うん、そうなんだよねー、バレンタインデーの次の日だったかな…お休みだったんで、風邪でもひいたのかなーって思ってたら、一週間たっても、学校来ないのよ」

そう答えながら、リコは手持ちぶさたに、シャープペンシルを指でもてあそんでいる。

 「えー?なんでまたー?」

 「リコたちがいじめ過ぎたんじゃないのぉー?」

 「ちょっとぉ、失礼なこと言わないでよ、そんなことしません!」

リコは軽くふくれて見せたが、すぐに顔を緩ませて続けた。

 「これはぁ、あくまでもウワサなんだけどぉ……」

 「うん、うん」

リコは得意げに持っている情報を披露しようとする。

他の二人は聞き逃すまいと、身体を乗り出して顔を寄せてきた。

 「…あの子、おじさん相手に『売り』をやって、けっこう荒稼ぎしてたらしいのよ…」

 「ええーっ、あのロリ顔でぇ?」

 「確かに、おじさん受けしそうよね…『おじさまぁん、美華ね、おこづかい欲しいのぉん』とかって、やってたんだよ」

サチがふざけて、体をクネクネさせながら言った。

 「やだぁ、サチったら、キャハハハ」

 「ふざけてないで、最後まで聞いてよ、まだ続きがあるんだから」

話の腰を折られたリコが、サチを制して続ける。

 「えっ、なになに?」

 「早く言ってよ」

ふざけあっていた二人が、期待に満ちた顔でリコの話に耳を傾ける。

 「うん、それでさ…そうやって、いろんなおじさんとヤッてたらしんだけど、とうとう失敗して…ニンシンさせられちゃったんだってぇ」

 「うっそー、すっげー悲惨じゃーん…そりゃ学校にいられないわ」

 「うっわー、やっちゃったねー…リコも気を付けないと…」

サチが茶化して言った。

 「ぬわんですってぇー、そんなことを言うのは、この口か、この口かー!」

 「わーん、いたたた、冗談だってばー、ひーん」

 「アハハハハ」

三人は、ここが図書室であることをすっかり忘れて、はしゃいでいたが、司書の女性にギロリと睨まれて、ようやく大人しくなった。


三人のおしゃべりは、少し離れた席でフェルメールの画集に見入っていた小夜子の耳にも届いていた。

 (美華さん…どうしているのかしら…)

根拠のない噂話の無責任さにあきれながらも、美華のことを考えると、小夜子は胸を痛めずにいられなかった。

 (みんな私のせいね…あの時、私さえ邪淫な気持ちを起こさなければ…あんなことには…ごめんなさい…)


小夜子は、あの夜のことを思い出すたびに、罪の意識に苛まれるのであったが、それと同時に、狂おしいほどの切なさがこみ上げて、身体が火照り始め、心の奥底に淫猥な火種がくすぶっているのに気付くのである。

 (なぜなの?あんなに非道い目に遭わされたのに、あんなに恥ずかしいことをされて虐められたのに……

どうして思い出しただけで、こんなにドキドキしてしまうの?…私…心のどこかで望んで……)

少女から女への階段を一つ上がった、小夜子15歳、早春のことであった。




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この物語はフィクションです。登場する人物、建物などは、全て実在しません。

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