恥辱コンテス

 

 

一輪の花

ここは、某女子大ミスコンテストの会場である。

暗い場内で、そこだけが明るく照らし出されたステージの上には、純白のウェディングドレスに包まれた娘たちが次々と登場し始めていた。

目映い照明に照らされて輝くドレス。

そのドレスは、いずれも愛らしいものであったが、しかし、それを着る娘たちは、あるいは化粧に清楚さがなかったり、あるいは真面目そうではあるが器量が今ひとつであったりと、いずれもドレスに負けているような有りさまであった。

娘たちはステージの中央に来ると客席に笑みを見せ、少しポーズを取る。客席からは拍手が続いていた。報道カメラマンたちのストロボが光る。

と、その時、場内には、にわかにどよめきが起こった。ステージには、桜色のドレスに身を包んだ一人の娘が歩み出ていた。

美しい娘であった。それは、他の娘たちとは明らかに質の違う、清楚で、気品に満ちあふれ、貞淑な香を漂わせる、明らかに育ちの良いご令嬢であった。

色白の顔はほんの心持ちふっくらとして、愛らしく、目もと、口もとには優しげな笑みが湛えられていた。

「あ、出た出た!」

客席では、一人の娘が隣の友人にそう言っていた。

「よっ!美鈴(みすず)ちゃん!」

「かわいいーよっ!」

彼女らは大声をあげ、娘を声援した。

ステージの中央に出て笑みを見せる娘。報道カメラマンたちのストロボが、一斉に激しく炸裂した。

一乗寺美鈴(いちじょうじ・みすず)、仏文科の1年生。

今年度ミス星華(ほしはな)女子大学の、押しも押されもせぬ、ダントツno.1候補であった。カメラマンたちの関心も、明らかに彼女へと集中していた。

美鈴は、前の娘に付いてステージを歩いて行き、他の出場者と共にステージ上へと並んで行った。

「おっ、あいつ、やらねえよ……。」

先ほど美鈴に声援した女たちの一人は、すると相方に向かい、何やら低い声でそんなことを言った。

相方はムッとしたような形に口もとを歪め、ステージの美鈴を睨んでいた。

彼女らの様子は、どうやら、美鈴を応援しに来た、という感じではなかった……。

 

 

美しい鼻の穴に……

ステージ上にはウェディングドレス姿の娘たちが居並んだ。

ほとんどの者が純白のドレスを着ていたが、その中にレモンイエローの者が2名、そして、美鈴のサテン製桜色ドレスが混じっていた。

美鈴のドレスは大型のパフスリーブが愛らしい、品の良いキュートなロングドレスであった。

スカートは形良く広げられ、腰にはリボンが飾られていた。

首周りには、小さな宝石が散りばめられて輝く、おそらく純銀製のネックレスが巻かれており、スカートの前でしおらしく合わせた両手には、白いサテン製の手袋が、彼女の手首までを覆っていた。

高価そうなドレスを着ている出場者は多かったが、美鈴の放つ気品と愛らしさは、中で文句なく群を抜いていた……。

「はい、それでは、第3部。ウェディングドレスの審査ということで、1人1人にインタビューをして行きたいと思います……。」

インタビュアーは放送研究会の女子学生が務めていた。

「それでは、まず1番の新堂夏美さん。今日は今までに水着と、私服の審査を受けて来たわけですが、自分のアピールは、どうですか?充分にできましたか?」

インタビューコーナーが始まった。1人1人、今日の感触や、ウェディングドレスを選んだポイント、それに、それを着た感想などを尋ねられ、答えて行った……。

そして、やがて美鈴の番が来た……。

「さあ、続いては6番の一乗寺美鈴さんです。」

インタビュアーが、マイクを持って美鈴の横にやって来た。報道カメラマンのストロボが激しく炸裂し始める。

と、その時であった……。

美鈴は、スカートの前でしおらしく合わせていた白い手袋の左手を動かすや、あごの前へと持って行き、人差し指を立てた。すると、その直後、彼女はその人差し指の先端を、なんと……!自分の愛らしい鼻の穴の中へと、押し込んでしまったのだった……!

美鈴の顔が恥ずかしそうに歪み、みるみるうちに赤く染まった……。

何事が起こったのか!?

ストロボを炸裂させていたカメラマンたちはファインダーから目を離し、唖然とした。

場内は静まる。

その中で美鈴は、白いサテン手袋の人差し指を手首ごと回転させ、ズブズブと、その美しい鼻の奥深く、大胆にねじ込んで行くのだった。

美鈴の美しい鼻が、無惨にひしゃげ、片方だけぶざまに広がる……。

報道カメラマンのストロボは、再び炸裂を始め、以前よりも激しく、そんな美鈴の顔をめがけて照射され出した……。

「おいおい!あいつ、こんなところでやっちゃったよ!」

客席の女は笑いを堪えつつ、声を殺して隣の友人に言った。

友人は、やはり笑いを堪えながら、何度も頷きつつ、「サイテーだよ!サイテー!」と言った。

「誰も、ここでやれなんて指定してないのに、ねぇ!?」

「なーんでぇ!?あははは……」

2人は堪えきれずに笑ってしまった。そして、ステージの美鈴を見つめた……。

「あっ……。」

インタビュアーは、美鈴の行為を見て思わず言葉を失っていた。

美鈴は左手の人差し指をズッポリと鼻の穴へと埋め込み、手首を回転させながら、明らかに鼻くそをほじっていた。

目には涙を溜め、顔を真っ赤に染めていた。

全く、何が起こったと言うのか……?

美鈴の、整った形をして「いた」鼻は、片方だけゴムのように広がって、全体は醜くひしゃげてしまっていた。

白いサテン製の手袋をした、気品漂うその左手。

スポットライトを浴び、雑誌カメラマンたちのストロボを受ける中だというのに、このステージの上で、まさかこの「超級」お嬢様が鼻をほじってしまうとは……!

インタビュアーの女子学生は、とても驚きを隠し得ない様子であった。当然のことである。

しかし、時間は相当押していた。インタビュアーは、できるだけ平静を装うように努めながら、美鈴にインタビューを始めた。

「一乗寺美鈴さんは、今年度『ミスほしはな』のダントツ有力候補と言われているわけですが、今日の自信は、いかがですか?」

美鈴は、すると、驚いたことに鼻をほじり続けたまま、向けられたマイクに答え始めるのだった。

「にしんなんね(自信なんて)、あいまねん(ありません)……。みあすぁん(皆さん)、のねもぬねぎな(とても素敵な)いどばぁいね(人ばかりで)……。」

左鼻の穴に深々と指を埋め込み、鼻をほじっている美鈴は、ひどい鼻声で、本来清らかだった筈の発音は無惨に崩壊してしまっていた。会場にはどよめきが広がり、審査員たちは怪訝な顔をして美鈴を見つめていた。

「一乗寺さんは、凄い名家のお嬢様なんですよね?」

「にね……、のんな……。(いえ……、そんな……。)」

美鈴の顔が一気に赤みを増した。目には涙がじわっと湧いた。

「名家のお嬢様」という言葉が、彼女の羞恥心を刺激したようだった。

「社交界のようなところにも出ているという話を聞いていますが、そうするとドレスなんかも、結構持っているんですか?」

「にね……(いえ)、ぞんだにはあにまでん(そんなにはありません)。」

インタビュアーは、良く聞き取れていない様子で困っていた。

美鈴は、まだ手首を回転させ、泣きそうな表情のまま、ズッポリと埋め込んだ人差し指で左鼻の穴をほじり続けたままだった。

報道カメラマンのストロボは休みなく美鈴に炸裂し、客席の視線は皆、美鈴の顔へと集中していた。

インタビューは、そのままの状態で続けられて行った……。

 

 

悪魔からのメール

「来月3日のミスコン、楽しみに見させてもらいますよ。」

それは、また、あのストーカーから届いたメールだった。

「『ミスほしはな』は、美鈴さんでキマリでしょう。楽勝です。だいたい他の女どもと来たら……」

文面は、初めのうち、どうでも良い女性批判が連ねられているだけだった。しかし……。

「今度のミスコンの時、リクエストがあります。」

その一文を皮切りに、メールの内容は恐ろしいものへと変化したのだった。

「ウェディングドレスを着た姿の時、次の3つのいずれかをやって下さい。」

その下に箇条書きされた3つの選択肢……。それを読んだ時、美鈴の顔はひきつり、青ざめた……。

その選択肢とは……、

 

1,鼻をほじる。

2,カンカンダンスを披露する。

3,パンティーを脱いで、それを客席へ投げ込む。

 

どれも、できるはずのない恥ずかしい行為ばかりだった。

美鈴は目を疑い、何度かその箇所を読み返した。

いつも迷惑なストーカーではあったが、まさか、こんなことを要求して来るとは……。今まで例のないことだったので驚いた……。

メールは、さらに続いていた……。

「3つ全てでなくて良いです。『いずれか』1つをやって見せて下さい。

「ただし、1番の時には人差し指を使い、客から見えるような状態で第一関節より深くまで指を押し込んでやらなければ駄目です。指を動かして、ちゃんと真面目にほじって見せて下さい。2番の時にはパンティーが見えるくらいまで、高く足を上げて下さい。「ヘイ!ヘイ!」と言いながら1分以上踊らなければ駄目です。3番の時には、アンダースコート、ブルマーなどは認めません。じかに穿いているパンティーをステージ上で脱いで、客席へ投げて下さい……。」

こ、こんな……。

美鈴は、怒りと恐怖と羞恥心とで、身体が細かく震え始めていた。

メールは、まだ続いていた……。

「もし、1つも見せてくれなかった場合には、ちょっと恥ずかしいモノが、場内にばらまかれることになるでしょう。欠席してしまった場合にも、同じです。これは、美鈴さんにとって、相当に恥ずかしいモノですよ。淑女の美鈴さんなら、間違いなく『お嫁に行けなく』なってしまうシロモノでしょうね。」

そして、次の言葉でメールは締めくくられていた。

「私の言っていること、単なる脅しなどと取らない方が良いですよ?

「それでは。」

美鈴は、しばらくの間、震えで身動きが全く取れないままでいた……。

 


 

「ええっ!?うっそー!!」

「トイレに……?」

ウェディングドレスでステージソデに控える美鈴たちの間に、ニュースが飛び込んで来た。

控え室横のトイレに、ビデオカメラが仕掛けてあったのが発見されたというのであった。

動揺する娘たち。

しかし中でも、美鈴の動揺はひときわ激しかった。彼女は今、ドレスに着替えた後、トイレに入って来たばかりだったのだ……。

美鈴は口に白手袋の両手を当て、呆然とした表情をして小刻みに震えた……。

彼女は今日、緊張のためか、腹痛に悩まされていたのであった。

時間がないのは分かっていたが、どうにも我慢ができなかったのである。

控え室横のトイレは1つしかない。美鈴は、カメラの仕掛けてあるトイレで用を足してしまったのだ。

しかも、下痢便を……!

「ええ!?無線機につながってたの!?」

「じゃあ、カメラ外しても、もうどっかで録画されちゃってるんじゃない!?」

それを聞いて、美鈴は、青ざめた顔をみるみる紅潮させて行った。

トイレの中。たっぷりとしたドレスのスカートを、これもボリュームのある真っ白なパニエごとバサバサとたくし上げ、純白パンティーの尻を出した美鈴。彼女は片手でドレスのスカートとパニエとをかかえたまま、もう一方の手でパンティー下ろして行き、洋式便器にしゃがんだ。そして消音のための流水も間に合わぬまま、彼女ははしたない下痢便を、下品な音と共に噴き出してしまったのだった……。

チュバー……!チュバチュバチュバチュバ!ブチュッ!ブチュブチュッ!ブチュッ……!!

あの時の、音……!

あんな姿を録画されてしまったなんて……!

「はい!それでは第3部!ウェディングドレスでの審査でーす!」

司会者の声がして、場内に拍手が起こった。

ステージに音楽が鳴る。

スタッフが1番の娘に指示を出し、娘はステージへと出て行った。

場内の拍手が大きくなる。

続いて2番の娘がステージへと出て行った……。

>もし、1つも見せてくれなかった場合には、ちょっと恥ずかしいモノが、場内にばらまかれることになる>でしょう。

美鈴の脳裏には、あのストーカーのメールが蘇っていた……。

>淑女の美鈴さんなら、間違いなく『お嫁に行けなく』なってしまうシロモノでしょうね。

(どうしよう、私……!あの3つのどれかを、やらなくてはならない……!)

美鈴は、そうしてステージへと出て行った……。

 

 

鼻くそお嬢様

インタビューは続いていた。

美鈴は真っ赤に染めた泣き顔のまま大胆に鼻をほじり、涙ぐみながらインタビューに答えていた。

ひしゃげ、白いサテン製手袋の人差し指が動くのに合わせて歪む鼻……。

美鈴は、1番の鼻ほじりを選択したのだった。

「くっくっく……。やってる、やってる……。」

「大成功。」

「せっかくミス確実だったのにね。」

「これで大減点!思いっきしポイント低いよ。」

「普通より可愛く見せなきゃいけない場所なのにね……。」

「くっくっく……。」

会場の女たちは、そう言って笑い合っていた。

「あのストーカーメール、うちらが出してるって、気づいてないのかね?」

「馬鹿お嬢様だから、分かんねんじゃね?」

そう言って、女たちは笑うのであった。

「では一乗寺美鈴さん、ありがとうございました。」

長いインタビューが終わった。

インタビュアーは横の娘へと移動して行った。

美鈴は、スポットライトから外れるやいなや、鼻に埋め込んでいた人差し指を、そっと抜いて行った。

会場の視線は、いまだ美鈴に集中したままであった。

と、その時である。

鼻から出した美鈴の指先で何かが糸を引き、美鈴の鼻の穴からベロリと伸びた。

それは、まぎれもなく、鼻くそであった。

美鈴の鼻の穴から、うっすらと褐色がかった鼻くそが、指先との間に太い糸を引いてしまったのだった。

美鈴の指が止まる。

会場は、どよめきを上げて騒がしくなった。ストロボは、美鈴めがけて激しく輝いた。

……!」

美鈴は鼻の穴と人差し指との間に鼻くその糸を引いたまま声を漏らし、狼狽の顔を浮かべた。

こんなことになってしまい、なすすべもない。

しかし、とにもかくにも鼻くそを隠さねばいけない。

彼女は他の指も使い、糸を引く鼻くそをつまんで取った。そしてその左手を握り、空いている右手で鼻を探った。まだ鼻くそが付いていないか確認したのである。

会場の女2人は興奮し、喜び合っていた。

「サイコーだよ!サイコー!」

「予想GUYでーす!(笑)」

美鈴の鼻は、もう汚れてはいなかった。

しかし美鈴は、左手に握った鼻くその処分に困った。

会場の視線は皆、美鈴に集まっている。横で行われていたインタビューも止まり、ステージ上の出場者たちまでもが皆、美鈴を見ていた。

「あ、それではですねぇ……」

慌てたようにインタビューを再開するインタビュアーの娘。しかし、客席の視線は美鈴から離れなかった。

握った左手をスカートの前に下ろし、美鈴はその上に右手を重ねた。

泣き出しそうな顔でオロオロと狼狽する美鈴。

まだ鼻が気になるらしく、右手をまた鼻へと持って行き、探る。

そしてまた、その右手を左手へと被せた。

うつむいて真っ赤な顔の美鈴。

カメラマンたちのストロボは、インタビュー中の娘ではなく、美鈴に向けて光を放っていた。

 

 

お下品な醜態

長い時が流れた。

インタビューは3人向こうの娘まで移っていた。

美鈴は右手を被せた左手を、右手で隠しつつ、そっと開いて見た。

べっとりと、薄褐色の鼻くそが、白く輝く手袋の指先と手のひらとの間で糸を引いた。

美鈴は慌てて左手を閉じた。

(どうして……、こんな……。)

両手をドレスのスカートに当てた格好の美鈴は、目をきつくつむると涙をこぼした。

会場のカメラは激しくシャッター音を立て続け、なおも美鈴めがけてストロボを照射していた。

美鈴は左手を再び開くと、手のひらの鼻くそを親指で押し転がし、人差し指の先の方へと集めて行った。左手は右手で隠したままである。

そして彼女は、そっと、その鼻くそを親指と人差し指とで丸め始めた。

なんという、はしたない行為……!

「超」の付くお嬢様が、ミスコンテストのステージ上で、群衆に見られる中、鼻くそを丸めていた。

真っ赤な頬に涙をこぼしたまま、美鈴はできるだけ、平静を装おうと努めていた。

もうインタビューは3人向こうまで行っている。そっとやれば大丈夫かも知れない……。

しかし、客席の大半は、まだ美鈴を見たままであった。

美鈴が左手で、そっと鼻くそを丸めているその様子は、右手でかばわれてはいたものの、客席から丸分かりであった。

清楚な美貌。愛らしいドレス。

まさか、この美しい娘が、ミスコンテストのステージ上で鼻くそをほじり出し、その大きな鼻くそを指先で丸め出そうとは……。

客席の誰もが目を見開いていた。

美鈴はやがて左手をそっとスカートの横へと下ろすと、指先を相互にこすり合わせ、鼻くそを落とそうと試み始めた。

なんたる下品な行為……!

まるで、電車に乗っている酔っぱらいの中年オヤジさながらである。

しかし美鈴は必死なのだった。

とにかく、この恥ずかしいものを手袋から落としてしまいたい……!

しかし、鼻くそはなかなか手袋を離れなかった。

美鈴は指をこすり合わせながら、左手を振ったりもした。そして何と、彼女はドレスのスカートへと、鼻くその付いた指先をこすり付けてしまったのだった。

なんとも、はしたない振る舞い。

会場の皆が見ている。そして、ストロボ……。

美鈴はまた手袋の指先をこすり合わせては、再びスカートへと鼻くそをこすり付ける。

涙をぽろり、ぽろりとこぼしながら、それでも彼女は平静を装おうと努めていた。

そして、何回かそんな行動を繰り返した時だった。

美鈴の鼻くそは、なんとドレスのスカートに付いてしまった。

美鈴はそれに気づき狼狽した。しかし、もう、どうにも仕方がない。

そのまま顔を赤らめて、彼女は両手をスカートの前に合わせた。

鼻くそは、ドレスのスカートに付いたままだ……。

 

 

晒しもの

「それでは、いよいよ、結果発表です!

「まずは、準ミス2名から!

「審査員のファッションコーディネイター、山村新一さん、お願いします!」

司会者の女子学生が華々しく言った。

指名されたのはヒゲづらにサングラスの、短髪をツンツンに立てた若い男だった。

「あのー……、準ミスを発表する前に、1つ解決しときたい問題があります。」

審査員の男は言った。

「6番の一乗寺美鈴さん。」

美鈴は名を呼ばれ、思わずハッとした。

男は続ける。

「あなた、ドレスのスカートに、鼻くそが付いてます。」

ズバリ、言われてしまった。

クスクスと笑う出場者たち。客席もざわめく。ストロボが、美鈴めがけて散発的に光を発した。

美鈴は気絶しそうな羞恥を覚え、クラクラとなりながらも、慌ててスカートの鼻くそに両手を当て隠した。

会場のストロボがまた激しく光る。

「隠すだけですか?」

審査員の男は厳しく言った。

美鈴は狼狽し、「いえ……」と言い、そして上半身をひねってスカートの左側に付着している鼻くそを右手でつまみ、取った。

場内でストロボが一層激しく炸裂した。

美鈴は鼻くそをつまみ取った右手をスカートの前で左手に隠し、顔を真っ赤に染めて狼狽の表情を浮かべた。

全客席の視線が美鈴に集まっていた。

すると、スタッフの娘がステージ下から美鈴にハンカチを差し出した。

美鈴はスタッフのもとまで歩み寄って行き、「すみません……」と言って左手でそれを受け取った。鼻くそをつまんでいる右手はドレスのスカート前にやったままだ。

スタッフから受け取ったハンカチで左手の鼻くそを拭い取る美鈴。

ストロボが途切れなく閃光を放つ。

審査員は、

「よーし、問題が解決した。ずっっと気になってしょうがなかったんだよ。」

笑う会場。

美鈴はハンカチを両手に隠しスカートの前に当てたまま、恥ずかしそうに顔を伏せた。

「では発表します。ミスほしはな、準ミスキャンパス1人目は……

「一乗寺美鈴さんです!」

審査員の男は言った。

会場から拍手が湧く。どよめきもあった。それは、ミス確実と言われていた美鈴が「準ミス」に選ばれてしまったせいであった。

カメラマンたちのストロボが引き続き激しく、美鈴めがけて炸裂した。

美鈴は、司会者の女子学生から小型のティアラを頭に飾られ、小さめの花束をもらった。

彼女は鼻ほじりと鼻くその一件で、ミスから準ミスへと降格されてしまったのだった。

審査員はコメントを述べた。

「一乗寺さん。あなたがステージの上でやった行為を考えると、とても準ミスなどあげられないんですよ?

「でも、あなたの魅力が相当なものなので、特別に、選考したんです。

「ただ、見た目はとっても"お嬢様"なのだから、少しは上品な行動というのかな?気を付けて勉強した方がいいと思いますよ?

「あまりにも、な行為でしたから……。」

「はい……。」と美鈴は涙声で答え、恥じ入ってうつむき、涙をポロポロと床に落とした……。

 

 

鼻くそだけでなく……

”鼻”のミスキャンパス!? 準ミスお嬢様がステージ上で鼻くそをほじっちゃった!?」

各週刊誌は、その後、鼻の穴に白いサテン製手袋の人差し指を埋め込み鼻をほじる美鈴の恥ずかしい写真と共に、この驚くべきミスコンテストの模様を報じた。

鼻をひしゃげさせ、大胆に鼻をほじりつつインタビューに答える美鈴のカラー写真。

「一乗寺美鈴さん(仏文科1年生)」

美鈴の名前なども、しっかりと載せられてしまっていた。

「今どきの女子大生はドーなってるのー!? 星華女子大学で『超級』お嬢様がミスコンテスト中に驚愕の鼻ほじり大披露!」

「『鼻くそお嬢様』? “ミスほしはな”最有力候補がステージで鼻ほじり 結果、あえなく準ミスに……」

「目を疑う光景! 準ミスキャンパスがコンテスト中に鼻ほじり ベロリ出た鼻くそはスカートで拭いちゃった!?」

週刊誌の中身は、まるで美鈴の写真集のようだった。

どの誌面にも色々な場面が、あるいはカラー写真で、またあるいは白黒写真によって紹介されており、中にはサテン手袋と鼻の穴との間で鼻くそが糸を引いてしまった、美鈴には恥ずかしい最悪の瞬間をとらえたカラー写真が、デカデカと鮮明に載せられた雑誌もあった。

狼狽の表情で鼻くそを見る美鈴の顔。

糸を引いている薄褐色の鼻くそ……。

スカートに付着した美鈴の鼻くそをアップでとらえたカラー写真もあった……。

「ちょっと、あの人、鼻ほじりの子じゃない!?」

電車で街で、人々の視線が美鈴に集中し、「鼻くそ」「鼻ほじり」という言葉がヒソヒソと囁かれた。

美鈴の毎日は、まさに「生き恥」の連続となってしまった。

どこへ行っても、自分を知らない人間はいない。それも、ミスコンテストのステージ上で鼻をほじった「鼻くそお嬢様」として……。

しかし、美鈴の恥辱はここで終わりではなかった。

『花のミスコン控え室トイレ』……。

なんと、その数ヶ月後に売り出されたマニア投稿モノDVDには、あの日トイレで盗撮された美鈴の排便映像が写っていたのだった。

たっぷりとしたドレスのスカートとパニエとを胸の前で抱え持ち、洋式便器にしゃがんで、はしたない音を立て下痢便を噴き出す美鈴の姿……。その一部始終が、正面上方から見下ろした鮮明映像で写されているのだった。

女たちは、本当に無線を使って盗撮を行い、それをビデオ会社に売りさばいたのである。

彼女らは美鈴の「いじめっ子」なのであった。

女子大にも、イジメは存在したのである。そもそも、ミスキャンパスコンテストに美鈴を出場させたのも、この女たちであった。美鈴には、自分から己の美を誇るような下品な欲などない。しかし女たちが初めから美鈴に赤恥をかかせるのを目的として、勝手に申し込みしてしまったのだった。

彼女ら、いじめグループは、トイレにカメラを仕掛けた際、美鈴の放尿シーンが撮れれば良いと考えていたのだったが、よりによって下痢便の排泄シーンが録画できたのは想定外の幸運であった。

しかも、綺麗なドレス姿で……。

DVDのパッケージ写真には美鈴のシーンの画像が使われ、その売り上げはウナギ上りに上昇して行った。

マニア向けDVDとしては過去の例のない驚異的な売り上げ記録を打ち立てることになったのは、それほど後のことではなかった。

ビデオには、美鈴の顔にモザイクなどは一切かけられていなかった。

誰もがそれを、あの週刊誌で話題となった「鼻くそお嬢様」であると認識できた。

DVDの存在は、今度もまた週刊誌各誌で伝えられた。

「準ミスほしはな『鼻くそお嬢様』 今度はDVDで豪快排泄!?」

「『鼻くそお嬢様』のトイレ盗撮映像流出! お嫁に行けない?その姿……」

「鼻くそに下利便! あの準ミスキャンパスの目を疑うDVD映像! この子、ほんとに準ミスでいいの!?」

 

「星華女子大学 仏文科1年の一乗寺美鈴」は、

これで日本中に『鼻くそ・下痢便お嬢様』として知れ渡ることとなってしまった。

美鈴の準ミスは即刻、剥奪され、他の娘が繰り上がったことが学内掲示板にて発表された……。

(完)


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御感想などはtiara@aiueo.artin.nuまで。

この物語はフィクションです。登場する人物、学校などは、全て実在しません。

本作品の著作権は、本作のアップロード日から50年間、愛飢汚が所有するらしいです。