羞恥スパイラル

 

(ステージ1)

 

 

幕開け

スポットライトに照らされたステージの上、愛らしい衣装に身を包んだ1人の美少女アイドルが、キュートなフリを踊り、歌っていた。

襟の大きな白いブラウスに、スカートの大きく広がった赤いチェック柄のエプロンドレス。

顔は目がパッチリとして、鼻は丸みを帯び、おっとりとして可愛らしいタイプだ……。

浜倉きよみ、16歳。

今、人気急上昇中の新人美少女アイドルである……。

ステージの下、薄暗い客席では色とりどりのサイリュームが輝き、曲に合わせて、きよみの名が叫ばれていた。きよみはステップを踏み、可愛らしいフリを付けて踊り、歌っている。

ツーテールに垂らしたお下げが揺れ、スカートは、純白のパニエを覗かせ、翻った……。

しかし……。

きよみの様子には、先ほどから、どうも気になることが1つあるのだった。

彼女は先ほどから、ずっと、何故か左手を後ろへと回したままなのである。

まるで、スカートのお尻に穴でもあいているかのよう……。

 

実は、この日きよみは腹を壊しており、先ほどから便意を催してしまっていたのであった……。

 

 

 

「おトイレに……」

1曲目が歌い終わった。きよみは客席に向かい、「こんにちは!浜倉きよみです!」と、可愛らしく挨拶をした。ファンたちの声援がそれに応える。

まだ、左手は尻に回したままであった。

きよみは、少しの間、何も言わずに立っていた。

便意が、限界に達してしまっていたのである……。

「い……、今の曲は、私の新曲で、『リトル・チェリー・ラブ』でした……。」

きよみは、やっとの思いで言葉を発した。

何かそわそわしたような、気のないしゃべり方であった。

「CD買ったよー!」などと客席から声が飛ぶ。ファンたちは、きよみの様子を気に留めていないようだった。

「ありがとう……。」

きよみは微笑んだ。しかし、その笑顔もひきつってしまっている……。

きよみは、また黙った。

両脚が、モジモジと動く……。

(ああ……!もう、出ちゃう……!)

きよみの肛門は、今にも勝手に緩み出しそうだった。

きよみの顔が苦痛に歪み、一筋の汗が伝った……。

(おトイレ行きたい……!もう、ステージ中、我慢できない……!)

きよみは、もはや一言も発することができなくなってしまっていた。

数人のアイドルが共演する今日のコンサート。きよみのステージは残り4曲だった……。しかも次は2曲連続……。

その2曲すら、全部歌いきれるか自信がない……!

きよみは、目に涙を溜め、うつむいた。

客席は、シーンとなって、きよみを見つめている。

きよみの腹がグルグルと鳴った。

(ああ!聞こえちゃう……!)

きよみの胸が羞恥できゅーと締め付けられた。

空腹で腹が鳴るのではない。

肛門で必死に堰き止めた下痢便が、大腸の中を逆流して鳴るのだ……。

ギュルギュルルルルルル……。

きよみの肛門に、激しい便意が突進した……。

(ああ!出ちゃう……!)

きよみは肛門に全神経を集中させ、身体をこわばらせた……。

(もう、我慢できない……!

(出ちゃう……!

(でも……、

――どうしたらいいの……!?)

まさか、「おトイレ行かせて下さい」などと言ってステージを去るわけにも行かなかった。そんな恥ずかしいこと、ファンの見ている前でできる筈はない。そんなことをしたら、前代未聞だ……。

しかし、きよみの便意は猛烈だった。

必死に締めている肛門が細かく痙攣し、感覚を失い始めている……。

ギュルギュルルルルル……!

(ああ!もう駄目……!出ちゃう……!)

「あ……、すいません……。私……」

きよみは、考えるよりも早く、声を発してしまっていた。

もう、事態は、一刻の猶予も許されないのだった……。

「私……、

「…………

…………

……おトイレに行かせて下さい……!」

…………

……言ってしまった……!

客席は「えええーーーっ!?」と声をあげ、一気にざわめく。きよみは顔をみるみる真っ赤に染めてうつむき、ソデの方へと小走りに去って行った。

(やってしまった……私……!本当にやってしまったんだ……!)

激しい便意の下、きよみの胸を羞恥が駆け巡った。

アイドルが「おトイレに……」と言って本番中のステージを降りてしまう……。

こんなこと……。

ファンの人たちの見てる前で……。

(ハズカシイ……!)

ギュルギュルギュルルルルル……!

ああ……!」

きよみの便は、今にも噴き出しそうになった。きよみは一瞬、身体を硬直させて立ち止まった。

スカートの尻を押さえ、少しのけ反るようにして立ち止まるきよみを、客席のファンたちは皆、見ていた……。

きよみは、また急いで歩き出し、ステージのソデへと入って行った。

ソデには司会役の先輩アイドルが驚いた顔で立っていた。きよみは頬を涙でビショビショにした顔で彼女を見上げ、

「すいません……!後、お願いします……!」

そう言うと、ロビーの方向へと小走りに去って行った……。

 

 

アイドル、脱糞

誰もいないロビーに出るきよみ。スカートの尻は押さえたままだ。

トイレめざして急ぐ。

会場からは、ざわめきが聞こえている。

(私、物凄いハズカシイことしちゃってる……。こんなの……、他にする人、いない……!)

きよみの胸は、羞恥で張り裂けそうになっていた……。

「ちょっと!きよみちゃん!どうしたの!」

若い男性マネージャーが後を追って出て来た。

しかし、きよみには立ち止まる余裕などない。

「すいません……!」

それだけ言って、きよみは女子トイレへと駆け込んで行った。

(ああ!もう、出ちゃう……!)

6個ほど並んでいる個室。きよみは、そのうち手前の1つへと飛び込んで行った。

便器は和式だ。

スカートの尻を押さえたまま、きよみは個室のドアを閉める。

カギ……。

きよみは便器をまたいで立った。

スカートとパニエとをいっぺんに両手でめくる。

ガサッというパニエの音。真っ白なアンダースコートの尻が丸出しになった。

アンダースコートに手をかけるきよみ。

下ろす……。

と同時に、

しゃがむ……!

 

ブチョォーーーーー!ブチョブチョ!チュバッ!ビチャビチャビチャビチャ……!!!

 

間一髪であった……。

凄まじい音……。

それは、可愛らしい16歳の清純美少女アイドルが、赤いチェック柄のエプロンドレスを着て発するような音ではなかった。

しかも、きよみは「ウンコ座り」……。

やがて、きよみの鼻に悪臭が上がって来た。

さっき本番の前に行ったばかりだと言うのに……。

きよみは自分の腸を恨み、声を洩らして泣いた……。

 


 

「ふっ……んんん……。んんっ……、く、ふぅんんん……。」

ブリッ……!ブチャベチャッ……!ブッ……!ブチャベチャブチャ……!

誰もいない女子トイレの中には、ドアの閉まった個室から、格闘するきよみの恥ずかしい音が漏れ聞こえていた。

悪臭も、相当なものであった。

「あふっ……。ふ、んんんん……。」

ブチャッ……!ブリブリブリブリ……!

ビチャッ……!ブリリッ……!

ブブッ……!チュバッ……!

エプロンドレスのスカートをめくり上げ、「ウンコ座り」でふんばる、お下げの美少女アイドル……。

それは、ファンには絶対、見せられない姿であった……。

充満する悪臭の中……。真っ白なアンスコとパンティーとは、ともに膝上へと下ろされている……。

トイレの天井に付いたスピーカーからは、ホールのざわめきが聞こえていた。

先ほど少しトークをやってくれていた司会者も今は喋らなくなって、ただ客たちのざわめく声のみが聞こえている。

(早く戻らなきゃ……。うんちだってこと、知られちゃう……。)

きよみは、ファンたちに、自分の所用は小便だったと思わせたかった。

ウンコをしに行っただなどとは、死んでも思われたくなかったのである。

(どうして「おトイレに……」などと言ってしまったんだろう……。)

きよみはステージで自分が発した言葉を後悔した。何も理由を言わなければ、いくらでも誤魔化せたのに……。

「あっ……、ふっ、ぅぅぅくくっ……。」

ブチャブチャブチャブチャ……!

きよみの便意は、全く収まらなかった……。

 

 

忍び寄る狂気

「浜倉は後回しにして下さい。」

客席の後方に設置してあるミキシング・ボックスで、きよみのマネージャーは、主催者の溝口に頼んだ。

きよみのマネージャーは、気の弱そうな、若い未熟なセールスマン風であったが、一方の溝口はパンチパーマの伸びたヘアスタイル。趣味の悪いグラデーションのサングラスをかけ、明らかにヤクザ風の風貌であった。

その溝口は、きよみのマネージャーを睨むと、

「構成っていうものがあるんだからね……。」

と、憮然とした調子で言った。

「なんのために本(=台本)があるのよ……?なんでリハやったりしたわけ……?」

溝口は、ドスの利いた声できよみのマネージャーを威圧した。これには、マネージャー氏は一言もなかった……。

苛立つ溝口。

彼は時計に目をやり、そして客席の様子を眺めた。

「もう駄目だ……。」

そう言うと、溝口は離れたところにいるスタッフに向かい、

「おーい!ワイヤレス1本!」

と、命じた。

「何するんですか?」

きよみのマネージャーは不安そうに尋ねた。

それに対する主催者の答えは、驚くべきものだった。

「トイレから、続きやってもらいますからね……。」

「ええっ……!?」

マネージャー氏は思わず絶句した。

「マイクです……!」

スタッフがマイクを持って来た。

「おい、女子トイレのスピーカー、音量上げとけ!」

溝口はマイクを受け取ると、スタッフにそう命じた。

「溝口さん!正気ですか!?やめて下さい!」

きよみのマネージャーが必死に食い下がる。

溝口は少し行きかけたが、振り向き、ただ一言、低い声で言った。

「主催者は私だぞ……。」

ステージ2へ

 


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この物語はフィクションであり、登場する人物、組織などは全て実在しません。

本作品の著作権は、本作のアップロード日から50年間、愛飢汚が所有するらしいです。