羞恥スパイラル

 

(ステージ2) 

 

 

個室から生中継

「ん……。ふんんっ……。」

ブリブリッ……!ブ、ベチャッ……!

きよみの格闘は、続いていた……。

と、トイレの入り口から、誰かが入って来る足音が聞こえた。

足音は凄い勢いで近づいて来る。きよみはハッとして緊張した。

コンコン……。

個室のドアがノックされた。

驚いてビクリと震えるきよみ。

「おーい!キョミちゃん!出られるー!?」

それは、主催者、溝口の声であった。なんと、男性である……!

きよみは狼狽し、急いで水を流した。(個室内の匂いは相当なものだったのだ。)

男の人が、ドアのすぐ外に立っている……!

きよみの顔は急速に赤らんで行った……。

コンコンコン……。

さらにドアがノックされる。

「おーい!キョミちゃーん……!」

「キョミ」という呼び方は、溝口独特のものであった。

きよみは狼狽し、

「あ……、ま……、まだ……、駄目です……。」

とっさに、そう答えた。

トイレにしゃがんで大便をしながら、男の人にこんなことを答えるなんて……。

きよみの胸は、激しい羞恥に締め付けられた。

匂いも、まだ凄い……。

「キョミちゃん、これ取って!」

見ると、個室の上からマイクが差し出されていた。

「え……!?」

きよみは訳が分からず、呆然とした。

と……、

「早く取れ……!」

いきなり、溝口の恐ろしい怒声が飛んだ。

きよみは思わず、スカートを両手でめくった格好のまま、中腰に立ち上がった。そして尻を汚さぬよう屁っぴり腰になりながら、つま先立ちをして片手をマイクへと伸ばした。

尻は丸出しの姿である……。

きよみは必死につま先立ちをし、震えながらマイクを受け取った。

「よーし。そうしたらステージの続き、ここで始めるからな!?」

「えっ……?」

きよみは耳を疑った。

マイクを片手に持ち、屁っぴり腰になったまま、きよみは呆然として固まった。

「おい高下、PAにつないでくれるか?」

溝口は、携帯電話でスタッフに指示を出した。

小声になる溝口。

「キョミちゃん、もうマイク、会場につながるからな?」

きよみは、驚いた表情のまま、再び便器をまたぎ、しゃがんだ。

女子トイレの個室の中で、マイクを握らされるだなんて……。

「さあ、ファンに挨拶して……。」

かぶりを振り、きよみは黙っていた。

「おい、キョミ……!早くやれ……!」

小声ながらも、溝口の声にはドスが利いていた。

きよみは思わず泣き声を洩らす。

「早くやれっ……!」

低い、吐き捨てるような声だった。

きよみには、もうこれ以上、抗うことができなかった。

とにかく怖い溝口……。 

きよみは、涙を抑えながら、マイクを口もとへと持って行った……。

「皆さん……。」

きよみは、マイクに小声を発した。

上のスピーカーから自分の声が一瞬遅れて聞こえる。小声でしゃべったのに、かなりの高感度だ。客席は一気に静まった……。

(こんなところからお客さんたちに話すなんて……。)

きよみの目から涙がこぼれた。

膝上にアンスコとパンティーとを下ろし、いわゆる「ウンコ座り」で和式便器をまたいでいる自分の姿……。

「皆さん……、御免なさい……。私……」

きよみは、その後、何と言ったら良いか分からなくなった。

「お腹が痛くておトイレから出られない」と言うのか……?

きよみは躊躇した。

強烈な便意……。

きよみは身体をモジモジと動かし、必死に便意を堪えた。

ギュルギュルギュルギュル……!

大便がきよみの腸内を逆流し、腹が大きく鳴ってしまった。

きよみは慌ててマイクを手で塞ぐ。

静かな女子トイレ内に響き渡るような、その腹の音……。

きよみは恥ずかしさで顔を歪め、両肩をすくめて、その間に真っ赤な顔を埋めるようにして深くうつむいた……。

トイレのスピーカーからは、客席のざわめきが聞こえている。

きよみは、また顔を上げると、マイクの手をどけ、トークを再開した。

「私、皆さんの前に、ちょっと今、行けません……。」

そうして少し間を置くきよみ。

「なので……、声だけで、許して下さい……。」

「よし……。オケ出して……。」

溝口は携帯で指示を出した。

大きくざわめいている会場。

少し遅れて、スピーカーからイントロが流れ出した。

「歌って……。」

溝口は、きよみに指示を飛ばした。

泣いてしまっているきよみ。

彼女は涙をぬぐい、もう一度マイクを口に持って行った……。

 

 

和式便器にしゃがむアイドル

ホールの中。ステージ両脇の大型スピーカーからは、きよみの歌声が流れていた。

ファンたちは、いつもの通り手拍子し、声援を送っていた。

きよみの声は泣き声で、少し声も抑えられているようであったが、それでも愛らしい、アイドルの歌声であった。

「どこで歌ってんだろうな?」

客席には、そう言って首をかしげ合う者たちもいた。

まさか便器にしゃがんだまま、歌っていると思う者など一人もいなかった。

しかし……。

♪ねえ、声を聞かせて〜

澄み渡る空……♪……あ、ふ

んん……!」

そう言って、きよみの歌が途切れた瞬間であった。オケの向こうに、何やら妙な音が聞こえた。

ブリッ……ブチャッ、チュチュチュッ……!

客たちは、怪訝な顔になってスピーカーの音に耳を澄ませた。

チュチュチュ……ブリッ!ポチャッ……。

「あ……。んっ、ふんんん……。」

客席は、一気にざわめいた。

「おい、これ……!ウンコしてるんじゃないか……!?」

「トイレで歌ってるの!?もしかしてぇ……!?」

「まじ……!?」

「ウソだろう……!?」

声援はやみ、客席は大騒ぎになった。

「おい!やめさせろ……!」

「音消せ!音を……!」

熱心なファン数名は、凄い勢いで席から立ち上がった。

しかし、彼らは全員、すぐスタッフに取り押さえられてしまった……。

スピーカーからは、再びきよみの声がして、すすり泣きながら懸命に歌を続けた。

きよみのマネージャーは、会場の後ろで頭を抱え、座り込んでしまった。

席に着く客たちは皆、「ウンコ座り」で排便しながら歌う、エプロンドレスを着たきよみの姿を想像し始めてしまっていた……。

 


 

トイレの個室内。

お下げの美少女アイドルは、客たちの想像する通りのポーズで便器にしゃがみ込み、泣きながら、けなげに歌を歌い続けていた。

強烈な便意……。

きよみは身体をモジモジと動かし、必死に我慢していた……。

 


 

ようやく、2曲連続の歌が終わった。

「どうも、ありがとうございました……。」

きよみは、トイレから客席に挨拶をした。スピーカーから拍手が聞こえる。

きよみの便意は限界を迎えており、身体は激しく捩(よじ)られていた。

顔は汗でびしょびしょだ……。

「今の2曲は、私……、前からとっても歌いたくて……」

きよみは、必死に、MCをしゃべった。

身体はモジモジと落ち着きがない……。

「マネージャーさんにお願いして、今日、やっと皆さんに聞いてもらえたんですけど……」

と、そう言った時だった。

きよみの尻で、ブリッ!と音がしてしまった。

きよみの顔が羞恥に歪む……。

「わ……私……、きょ、今日は歌えて……」

きよみは懸命にMCを続けた。

「とっても、嬉しい、です……。」

ブリッ……!チュッ……!

きよみの肛門は、今まさに限界の様相を呈していた……。

「本当は……もっと……、ちゃんと……」

きよみのトークがしどろもどろになる。

もはや神経は全て肛門に奪われてしまっていた。

(早く歌に行かなきゃ……!)

「私……、でも、とっても、嬉しい……です……。

「つ、次の曲……」

そう言った時だった。

チュビュアーーーーー!ブチャブチャブチャブチャブチャブチャ……!

凄まじい音がして、激しい下痢便が勝手に噴き出してしまった!

トイレ内にも反響するほどの、大音響……!

きよみの白い靴と、ソックスとが、茶色い斑点で汚されて行った……!

 

チュビュアーーーーー!ブチャブチャブチャブチャブチャブチャ……!

ステージのスピーカーからも、その凄まじい音は、何倍にも拡声されて響き渡った。

客たちは思わず目を見開き、驚きの声をあげた。

「んはっ……。お……な、か、痛……ぃぃぃ……。」

続いて、苦しげなきよみの呻き声が聞こえた。

これは紛れもなく、きよみの排便する音なのだ……!

まさか、あの浜倉きよみが、こんな音を立て、排便しようとは……。

アイドルはウンコをしない、などと信じている者はいなかったが、それにしても、それは、あまりにもイメージとかけ離れた、ショッキングな音であった……。

「んああぁぁ……いや……私……。」

少し遠めに、きよみの泣き声が聞こえた。

続いてスピーカーからは、きよみの泣きじゃくる声が続く……。

急に近くなる泣き声。と……、

「ごめんなさい……。」

きよみは、客たちに対し謝った。

ファンたちは、何と言ったら良いか分からず、黙っていた。

しばし泣きじゃくるきよみ……。

客たちは、小さくざわめいたまま聞いていた。

「次の歌……。聞いて下さい……。」

きよみは、ようやくのことでMCを終えた。

スピーカーからイントロが流れ出す。

ファンたちは、また手拍子を始めた……。

 

(ああ……!私……!もう、お終いだ……!)

トイレの中、マイクを持ったきよみは、真っ赤に染まったびしょびしょの泣き顔を、覆った。

彼女の白い靴とソックスは、内側が茶色い斑点ですっかり汚れてしまっていた……。

 

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この物語はフィクションであり、登場する人物、組織などは全て実在しません。

本作品の著作権は、本作のアップロード日から50年間、愛飢汚が所有するらしいです。